キャリアカウンセリングの現場から
理系学生のための就活アドバイスシリーズ


ビジネスも人生もそして、就職活動も。そもそも正解なんてない。各々の価値観や個性。さらに背景やその場の状況によってその時のベストな選択が変わってきます。

正解を探すためにネット上をフラフラしても気づいたら朝になるだけです。体裁の追求ではなく本質を捉えるための対策をしましょう。

1 本題にはいる前にあたって

これから挙げる事例はキャリアカウンセリングにおいて、相談の多い内容です。あくまでも例にすぎません。読んで恐れる必要はありません。

どのようなことが起こる可能性があるのかを知ることはとても大切なことです。先輩たちの事例を知り本番に備えましょう。ビジネスで言うところの「リスクヘッジ」です。

[本タイトルの目標]

□就職活動に正解を求めすぎてはいけない理由を知る。

□自分で伝えたいことが伝わっていないこともあることを知る。

□自分の可能性は自分で気が付くことから始まるということを知る。

2<キャリアカウンセリング>事例

キャリアカウンセリングにおいて、『エントリーシートの添削』や『模擬面接』を希望する学生が多いです。

自己アピール文章を練習で書いてみた。面接の練習がしたい。と、ターゲット企業をとくに設けず行うこともあります。ここでは、明確なターゲット企業がある場合ということを前提にしてお伝えします。

理系の学生に多いのですが、エントリーシートの添削後、「これは何点ですか?」や、模擬面接を行った際、「今の何点ですか?」と聞かれることがあります。

私の今までの経験を踏まえて点数化は不可能ではありません。そして、数値化した方が自分の到達具合が分かりやすい。しかし、その点数を参考にしてもいいですが、重要視してはいけません。

学生に忘れてほしくないのは就職活動において大切なのは業界や企業研究をした上で自分の何を伝えたら良いのか、どのような表現方法がいいのか検討を重ねること。

検討を重ねていくうちに自分らしい表現になっていきます。正解はどこを探してもありません。そして、正解を求めすぎてもいけません。大切なのは、理解してもらいたい相手に思いが通じるかどうかなのです。

ちなみに私が添削や模擬面接をやらせていただく場合、何を伝えたいのか、それはどうしてなのかを確認させていただきます。

ターゲット企業が明確になっていれば、企業の情報なども確認させていただきます。

他者からアドバイスが欲しい場合は、伝えたいことやその理由、どのような企業なのかを伝えてください。「これどう?」だけでは自分が得るべき情報は得られません。

人は正解があったほうが、修正する箇所が明確になり、それを直せば大丈夫と安心が得やすいのかもしれません。そうではないのが就職活動なのです。

就職活動に正解を求めすぎてはいけない理由は大きく3つあります。

①インターネットなどの情報は共感を得やすい情報が多い

②企業には、それぞれの歴史や背景そして将来の展望があり求めている人材も違う

③人には、それぞれ重ねてきた経験があり身につけてきた力や価値観も違うし描いている未来も違う

2-1 インターネットなどの情報は共感を得やすい情報が多い

インターネットなどの情報は共感を得やすい情報が多いです。つまり、事実の一部です。また、とくに考え方に関する情報は、表現された言葉は同じであっても、その言葉を遣った理由は人それぞれ。

もっと言えば同じ言葉を遣っていてもイメージしていることは違うかもしれません。言葉のギャップは人間関係構築の阻害要因になることもあります。

それをふまえて自分はどうするのかを考え行動する。これが情報活用能力です。

この力を高めるには日常のちょっとした工夫でこの力を高めることができます。

どうしてそのような意見なのか、この情報はどのような背景で作られたものなのか目の前に見えることだけでなくその後ろにあるものは何かを想像しながら読み解く。

もしくは相手の立場になったつもりで聞くということも大切です。まずは、正しく把握できているか否かを気にするのではなく考えながら読むそして聞く姿勢を身につけることを目指してください。

この姿勢は後悔しない就職活動を実現するためにも必要になってきます。

補足ですが、自分の意見を伝える際、理由を付け加えることをおすすめします。

結論がたとえ同じだとしても経験をふまえた理由であれば他の学生と被ることもありません。

研究職や開発職といった技術職、専門職を目指す方にはとくに磨いてほしい力があります。

常識や当たり前と思っていることに対し本当にそうなの?と「疑う力」です。大多数がそうだとか、みんなが言っているというのは、全てではないです。

もっと言えば、自分の周りだけかもしれないし、誰か知らない人の一意見に過ぎないかもしれません。ここで勘違いしてはいけないことがあります。

一般的と思われていることを疑うということは否定的になるということではないです。あらゆる意見や価値も肯定的に受け止めることと表裏一体になっている必要があります。

グローバル化や価値の多様化が進む現在において、あらゆる意見や価値を受け止められる力というのは今後ますます必要とされる力です。

さらに、あらゆる意見を肯定的に受け止めながら、本当にそうなのか、これしかないのかと疑ってみる。イノベーションを起こすにはとても大切な力です。

あえてもうひとつ付け加えるとしたら、「批判的思考」。他者を批判することではありません。自分の選択はこれでいいのか、これしかないのかと自分にツッコミをいれる内省のための考え方です。

おそらく研究などで自然にこの考え方をしている学生も多いと思います。

2-2 企業には、それぞれの歴史や背景そして将来の展望があり求めている人材も違う

採用の現場で採用担当者が応募者の方々が提出したエントリーシートを読みながら、または面接を対応している中で学生にフラれた気分になることがあります。

あなたの会社に興味があります、入社を希望していますと言っている学生にフラれた気分にさせられるのです。おかしな話です。どうしてかわかりますか?

テキスト ボックス: 企業がホームページや会社説明会で伝えていること(例)
◇私たちはどのような会社なのか。
◇私たちは今までどのようなことをしてきたのか。
◇どのようなこだわりを大切にしているのか。
◇今後どのような展望をもっているのか。
◇どのような社員の方々が活躍しているのか。
◇どのような人材を必要としているのか。
◇選考スケジュール
◇福利厚生  等々

企業は、学生に知ってほしいことをホームページや会社説明会で伝えています。そして、会社説明会ではほとんどの学生が姿勢を正し頷きながら一生懸命聞いています。熱心にメモも取っています。

しかし、学生のエントリーシートや面接で伝えられる内容からは企業側が伝えた内容をくみ取られていないことが多いのです。

「最近の学生はどうですか?」と企業の採用担当者に質問すると「業界研究や企業研究ができてないね、伝えたのに・・・」と寂しそうに返答されることが多いです。

まずは、「あっ!この学生いいかも」と興味をもってもらう。さらに、「やっぱりいい!!もっと話しを聞きたい」と思わせる。そう思わせる決め手がないとその先の選考には進めません。

このようなことが起きる主な理由の一つに文章例に引っ張られすぎていると私は感じています。その文章例はインターネットや書籍だけでなく、先輩や友人が作成したものも含みます。

文章例は皆さんがどうやって伝えようか考える際にはとても役に立つものです。いくつかの文章例を見ていくと自分が伝えたい内容に近いものがあります。

そのような文章を見つけるとその文章にどうしても寄ってしまうのではないでしょうか。その文章は誰が読むものなのか、誰が聞くものなのかを具体的に考慮する必要があります。

相手は社会人とか、採用担当者といった大きな括りで捉えていては自分の思いを届けることはできません。

もう一点挙げるとするならば、業界と職種が同じならどこの企業も同じと考えている、と思われても仕方がない内容が多いと感じています。

同じとは考えていないかもしれませんが、企業の個性の違いを明確にできていない学生は多いです。企業の社史やこだわり、今後の展望だけでなく顧客ターゲット層や開発方針など比較すると違いは見えてくるものです。

同業界内の企業の優劣ではなく、見出した個性に対しての自分の見解を持つということは就職活動において重要なことです。研究職を希望されている方も多いでしょう。

企業によって研究内容の決め方もチームの編成方法も異なります。同じ名前の職種だからどこも同じではありません。職務範囲が大きく異なることさえあります。きっとこうだろうと安易に決めつけてはいけません。

そうならないためには、それぞれの企業について調べ、自分なりに咀嚼する必要があります。本当にその業界その企業を理解しているということは、どこかに掲載されている言葉ではだめ。

自分の言葉で説明できなくては理解しているということを証明することはできません。その会社への関心ややる気は「がんばります」の言葉では信じてもらえません。

言葉から感じる直向きさや、よく調べていると感じさせる費やしたであろう時間が相手の心を動かします。

企業はこの先あらゆる困難にも共に立ち向かえる方々と一緒に働きたいと考えています。同時に、せっかくご縁があって入社したのだから気持ちよく働いていただきたいとも考えています。

そのために自分たちの会社を理解して納得して入社していただきたいのです。なぜなら、仲間が増え、仲間それぞれが気持ちよく働くことにより成果を発揮しやすくなる。

それはお客様に喜んでいただけることにつながります。すると企業は強化拡大します。そのための採用選考です。企業の採用活動は、その企業の成長戦略に関わってくる重要な取り組みです。

その意図をくみ取って就職活動を進めてみてください。意識が変わると行動が変わります。行動が変わると相手からの評価がかわります。つまり、採用の可能性が高まるということです。

2-3 人には、それぞれ重ねてきた経験があり身につけてきた力や価値観も違うし描いている未来も違う

採用現場のあるあるです。みんな一緒。採用担当者の思いを解説します。誰一人としてどういう人なのかわからなかった。だからみんな一緒ということです。

この話をすると「選考を落とす理由もなかったということですよね」と言う学生もいます。考えようによっては、企業にとって採用すべき学生だったのかもしれません。

しかし、判断材料が揃わなければ、選考は通過できません。なぜなら、皆さん同じ条件で選考をすすめるというのが前提にあります。

さらに、限られた期間中に内定者を決めなくてはいけません。時間的猶予もありません。

エントリーシートの添削や模擬面接を担当していて気になることがあります。それは、当り障りのない内容が多いことです。その際、私は学生に伝えます。

「いい人止まりだね」と。残念ながらいい人は採用されません。採用されるのは企業で何かしらの貢献をしてくれるに違いないと期待を感じさせる学生です。

期待を感じさせるメッセージを伝えるには、自分の成長のスパイラルを伝えるのです。企業は新入社員に伸びしろを求めています。完璧など求めていないのです。

自分が今までどのように成長してきたかを伝え、たとえ環境が変わっても、その成長のスパイラルは入社後も続くということを伝えることです。

当り障りのない文章になってしまう理由は、前項でも触れたように、文章例に寄ってしまうということもあるのかもしれません。

それに加え、文章の体裁を気にしすぎる、文字数制限を理由に踏み込んだ内容になっていないというのも挙げられます。

しかし、最大の理由は他にあります。企業が何を知りたいのかを理解していない。だから、自己理解が肝心なところまでできていない。

つまり、自分自身のデータが不足している。故に、言葉にすることができない。という現象が起きています。まとめると、自分の可能性に気づけていないということです。

テーマから少しばかり脱線します。

自分の可能性という点においては、しっかり伝えておかなくてはいけないことがあります。自分の専攻の可能性についてもっと知ってほしいということです。

今や技術の現場はあらゆる技術のコラボレーションで成り立っています。さらに、社会が大きく変わろうとし、気候の変動も見受けられます。

そのような中多くの企業が新たな技術戦略を打ち出しています。それらの情報を収集しながら今一度自分の研究について考えてみてください。

自然科学だから、工学だから、数学だから、この業界この職種しかない。今やそのようなことはありません。選択肢は確実に増えています。

そして、理系学生にやっていただきたい準備があります。

□専攻や研究内容を選んだ理由

□どのようなことを学んでいるのかもしくは、研究内容を誰でもわかるように説明できること。

そして、その学問や研究は将来どのような可能性を秘めているのか付け加える。

さらに、ターゲット企業でどのように貢献できるかの表明。

その際、企業の専門と自分の専攻が一致していなくてもいいです。

学びや研究を通して得た知識、考え方、見出した概念、プロトコル作成や実験器具の作成等

経験を活かしてターゲット企業にどのように活かせそうか考え抜いてください。

□とくに大学院生 研究概要(A4 1枚版&A4 2枚版)の作成

□とくに大学院生 研究ノートの見直し

どうしてその手法を選択したのか、他の選択肢はなかったのか。もっと充実した研究にするためにできることはなかったか 等々

3 振り返り

□早速やってみようと思ったことはありますか? それはどうしてですか?

□今後どのような準備が必要だと感じましたか?

□就職活動とはどのようなものだと感じましたか?

□何か他に気づいたことがあれば書き残しておきましょう。

4 まとめ

振り返りはいかがでしたでしょうか。今の考えでいいですよ。これからの活動で増えたり減ったり、変わったりしてもかまいません。今この瞬間の気持ちを大切にしてください。

エントリーシートシートや面接を通して自分の可能性をプレゼンテーションしてください。自分の可能性は、考えているだけでは見出せません。

他専攻の学生と話しをしてみたり、インターンシップに参加したりと動いてみることで気づくこともたくさんあります。

ここまで、色々考えながら読むのはとても大変だったと思います。

ここまでの健闘を称えつつ、今後の健闘をお祈りし終わりにします

キャリアカウンセラー 加藤真琴

一歩踏み出す瞬間の人の輝きに魅せられキャリア支援に携わっていくことを決意したのが20年前。理系大学での活動を中心に、延べ15,000人以上の学生を対象としたキャリアカウンセリング実績をもつ。

現在の志事(ライフワーク)は、セルフブランディングとフレームワークを活用したキャリアサポートプログラムの企画運用。

「正解なんてない。こたえはツクルもの♪」をモットーに活動中♪