厳しいアカデミアでの研究生活も終わり、社会人としての生活がスタートします。

土日の休日も確保され、残業代もしっかり支払われる生活です。ライフワークバランスを大切にしながら趣味に興じたいところですが入社はゴールではありません。

アカデミアは準備期間であり、入社後に理系人材としての人生がスタートするのです。理系は生涯学習が必要ですが普段の業務の中では勉強をする時間が取れないと思います。そこで他の社員と差をつけるには就業後に学ぶしかありません。業務で使った機器の原理を改めて確認してみる、うやむやになっている知識を改めて学ぶといった努力が必要です。

理系就職は入社時点がスタート

面接でアピールした自分を実現できるか

面接の場では多少なりとも自分のことを盛ってアピールしていたと思います。日々学び続けることで分野のエキスパートになりたい、リーダシップを発揮して業務に取り組みたいといった説明をしていたかもしれません。しかし、こんな自分をアピールしたにも関わらず実践しないのは相手に失望感を持たれてしまいます。人事担当者はある程度、面接段階で人材を評価しており、それを基に初期の配属が決められるからです。面接でこんなことを言っていたのに全くできていない社員はより評価が低く見られてしまうでしょう。面接でアピールを実践しなければなりません。そのためには就業後の取り組みが重要です。その日の出来事を見直すだけでも改めて知識がインプットされ、次回業務に取り組む際に高いパフォーマンスを発揮できるのです。

常に会社のことを考える必要はありませんが、勤務時間以外は全く業務のことを考えないという姿勢は避けましょう。

アカデミアで終わらせない

新入社員の間では、意外にも企業の方が最新技術に関して疎いという意見がたまに聞かれます。これは一部ベテランの理系社員が情報収集に励んでいないからであり、会社の業務からでしか分野に関する情報を得ていないという社員は多々見られます。

アカデミアでは雑誌会や実験テーマ立案の段階で論文を読み日々情報収集に取り組みますが、企業では業務でいっぱいいっぱいとなり、論文や特許、最新情報に目を通さないということが多いようです。

しかし、アカデミアで培った情報収集の姿勢は入社後に忘れてはいけません。業務に関連した最新情報や競合の動向、客先の業界に関する情報は確認しておきましょう。入社後初期の段階では設計など重要なポジションを任されないかもしれませんが、情報収集で得た知識は自らが設計する際に必ず役立ちます。企業ではせっかく開発して製品化を考えてみたのに、実は競合が特許を抑えているということが多々あるのです。

出世する社員は就業後に活動している

企業の取締役など高いポジションにいる人の話を聞いたことはあるでしょうか。企業説明会や入社式、株主総会で彼らの話を聞くことができますが、最新の業界動向や国の経済状況など彼らの知識には圧倒されるばかりです。

一方で課長止まりなど比較的出世が遅れている社員は業務で培った内容しか把握していない印象があります。企業で出世する人は業務以外の内容も調査しており、就業後に活動していると思われます。

特に昇進するほど求められる知識の幅は広がり、専門分野だけでなく経済や相手先企業をとりまく状況も把握しておかなくてはなりません。就業後の調査といっても勉強する姿勢で取り組む必要はありません。音楽を聞いてくつろぎながら、関連する情報に目を通せばよいのです。それこそ家でお酒を飲みながら調べるのも良いでしょう。時間も30分程度で構いません。帰ってから趣味の雑誌を読んだりゲームだけではなく、自身の成長を楽しみつつ仕事と付き合いましょう。

生涯学習が求められる理系社員

仕事中だけでは身につかない技術内容

就業後の活動が重要な理由は、仕事だけでは自分が担当する専門分野の情報を得られないためです。企業での業務はアカデミアのそれと違い、研究目的に沿った仕事だけではありません。

新規性に乏しいテーマでも納期が迫っているものは優先的に対応しなければならず、また、第三者機関の環境監査対応など直接付加価値の生まない仕事ばかりです。

若手のうちはルーティーンの書類作業を任されるかもしれません。そのような環境下では専門分野に関する知識は得られないでしょう。入社して1年経ったが特定の機器測定しかできないという社員も見られます。

雑務が多い企業ではどうしても業務時間以外で自分の専門性を高めるしかないのです。会社の専門分野に関する参考書・業界雑誌を読むでも良いですし、他の社員が担当する開発テーマを覗いてみるのも良いでしょう。担当業務だけを情報源とするのは視野が狭まってしまいます。決して受け身にならず自分から情報を探す姿勢を持つようにしてください。

社外の新しい情報

研究、開発の部署では情報収集に時間を割かないことが多いようです。

古い考えを持つ人たちの間では手を動かさない業務は仕事ではないという考えが浸透しており、特許調査を職務として認めない部署もあります。

また、企業によっては開発と知財で部署が分かれており、情報調査は知財部の担当として棲み分けられていることもあります。このような例では知財部に配属されない限り、業務を通して学習の幅を広げることは難しいでしょう。

勉強をしなくても社内では仕事を乗り切ることができるかもしれません。しかし理系人材は社外、市場全体で専門性を競う存在です。特に近年では人材の流動性が高まっており、急な出向や異動、転職は一般的となっています。

キャリアアップを目指して転職を目指そうにも、社内業務に関する知識しかなければ人材としての価値は低く見積もられてしまうでしょう。会社の中が全てとは思わず、業界全体を考える視点を持てば学習の重要性が分かるはずです。

学習は定年退職まで

理系人材の学習は定年退職まで続きます。専門性を磨くのは若手から中堅だけでなく、全年齢の社員に求められることです。

開発を担当する場合、常に業界動向を把握し他社に先手を打つ技術を開発しなければなりません。分野外のことでも新たに生まれた技術が自社製品に応用できることもあります。

技術営業の場合は自社製品に関わる専門知識が無ければ顧客に上手く説明することができません。そして、他社製品の動向を把握しなければ営業力で負けてしまうでしょう。理系の仕事はルーティーン作業ではないため、働き続ける限り学習が必要です。

現在では人生100年時代と言われ、定年退職後も再就職や再雇用を通じて働くことが一般的となっています。退職後も活躍するために一生涯学習を続けなければなりません。自身の成長と変化を楽しむことが大切です。

誤った方向に行かないように

書籍・セミナーを過信しない

学習の重要性を説いてきましたが、書籍やセミナーを過信しないようにしましょう。技術革新は生き物のように常に進み続けています。書籍で専門性を磨くのは重要なことですが、決して最新の内容が記載されているわけではないため過信は禁物です。

例えば理学的な原理や基礎知識を学ぶためのものとして位置づけましょう。最新動向は特許の他、業界新聞などがおすすめです。セミナーも同様に古い情報に偏る場合があります。実際に企業で実施されている最先端の開発は外には漏らさず周知の事実を述べていることが多いため、こちらも参考程度とした方が良さそうです。

また、勉強するだけで自己満足してしまいがちですが学習の目的は仕事に活かすことです。自己評価ではなく上司の評価が成果につながるため、役に立つ勉強をしているか考えなければなりません。従業員という立場ではなく、会社という市場の中における商店主という立場と捉えることで学習がはかどると思います。

ルーキーを対象とした勧誘に注意

ルーキーを対象とした勧誘には気を付けなければなりません。YoutubeやTwitterで憧れの生活をするインフルエンサーが多く見られますが、彼らは実績があるというより芸能人としての存在です。

その他に勉強会や異業種交流会という名でさまざまなイベントが開催されますが、そのような場で仕事をするわけではありません。なかには新社会人を対象とした怪しいセミナーもあります。理系人材としての実績につながらないものは参加しないようにしましょう。

目標・軸を持って学習対象を定める

学習の軸を持たなければ必要のない分野まで学んでしまうことになります。もちろん学んだことは無駄になりませんが、忙しい社会人は時間が限られています。

限られた時間の中で結果を出す学習をするためには学習内容の取捨選択が必要です。将来的にどうなりたいかという目標を定めれば何を学ぶべきか分かると思います。

研究開発職としてその分野のエキスパートを目指すのであればその分野の専門知識を網羅し、その上で特許調査をするのが適切な道といえます。取締役として経営者を目指すのであれば会計や経営学の知識を習得する必要があります。

理系人材では難しいかもしれませんが、独立を目指すのであれば数々の事業例を調べ自分に合ったものを探しましょう。人生を長いスパンで考え将来像を思い浮かべれば適切な学習分野が見つかると思います。

これだけは知っておきたいポイント

1)社会人こそ勉強が必要

2)生涯学習が欠かせない理系人材

3)目標から学習範囲を定めよう