化学業界はよく川に例えられます。石油化学メーカーは業界全体の原料となる基礎化学品を生産することから川上と呼ばれ、例えば医薬品メーカーは消費者に近い川下と呼ばれます。
川上・川中・川下でビジネスモデルや求められる人材が異なるため、就活ではそれぞれに合った対策が必要です。
また、化学系の学生は化学業界ばかりを目標とする傾向がありますが、化学の知識が求められるのは化学業界だけに限りません。
自動車部品メーカーは製品の物性を理解するために化学関係の職種を募集しています。化学専攻が求められる化学以外の業種についても確認しましょう。
理系就活の化学業界は川に例えられる
上流域
複数の河川をたどっていくと、同じ上流域から水が流れている場合があります。化成品でも同様です。プラスチックメーカーと製薬会社は全く性質が異なるように見えますが、石油由来の原材料を使っており、同じメーカーから原料を調達する場合もあります。
このような、様々な分野に共通した原料を製造する企業を「川上」と呼び、石油化学関連企業これに当たります。樹脂原料として必須であるエチレン、化学反応時の溶剤や中間体原料となるトルエンなどを生産している企業は川上であり、三菱ケミカルや住友化学が該当します。
売上高は1兆円を超え、企業の業績は新製品のヒットではなく世界全体の景気によって左右されることになります。規模が大きいため知名度が高く、採用における倍率が非常に高いのが川上の特徴です。学校推薦を通じて志願した方が現実的と言えるでしょう。
中流域
川上企業から原料を調達し、加工して化成品や素材を製造するのが「川中」です。繊維や合成樹脂を生産するクラレは川中の一つで、川上で生産されたアクリル酸化合物をもとにアクリル共重合体の樹脂を販売しています。
川上も同様ですが、川中は企業買収を通じて創立時とは異なる事業を展開している事があり、社名からは事業内容を判断できない場合があります。
例えば火薬メーカーとして創立した日本化薬は火薬以外にも樹脂・医薬品、自動車関連部品を生産しています。
このような企業の場合、各事業に配置できる汎用性の高い志願者が採用において優位になるかもしれません。一方で知名度が低いものの、ニッチトップを走る企業も多く見られます。
志願者が少ないため就活の初期段階で志望すれば採用される確率が高くなるでしょう。自分に合った意外な穴場を見つけられるかもしれません。
下流域
川下は私たちが手にする最終製品に近い化成品を生産しています。接着剤や塗料メーカー、吸水性高分子を使用する生理用品メーカーは川上となります。
化学とは他分野に分類される製薬業界も川下と言えるでしょう。川下の特徴は事業内容が比較的狭まっていることで、例えば塗料メーカーはほぼ塗料かそれに関連する製品しか製造していません。
そのため採用においてはアカデミアでの研究内容が重視され、企業の製品分野に近い人が採用されやすくなります。就活では限られた時間の中で結果を出さなければならないため、あまりにも分野が異なる川下企業への志願は止めた方が良さそうです。
また、川下の会社規模は様々です。P&Gや花王といった誰もが知っている日用品メーカーは志願者が多く、倍率は100倍単位となるでしょう。
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化学業界だけではない、化学専攻を求める業種
自動車・部品業界
化学専攻の学生は就活で「○○化学」といった名称の企業に応募しがちですが、化学を求めているのは化学メーカーだけではありません。
自動車及び自動車部品メーカーにとっても化学は必要です。例えば自動車部品にプラスチックが使われる場合、物質そのものの安全性に加え、物性の評価には化学的な知識が求められます。
特に資金力が豊富な自動車メーカーは化学メーカーよりも優れた実験設備を導入しているそうです。また、素材を売り込みたい化学メーカーの技術者とのやり取りには化学者が必要となります。
自動車業界が化学系を採用する際はやはり車両自体を構成する高分子などの有機素材や無機素材の知識を持った志願者が採用されやすくなるでしょう。部品関連企業の中には化学系職員が不足していて中途採用を応募しているところもあります。
電機・機械業界
電気電子工学系の学生が応募するイメージのある電機業界ですが化学専攻の学生も求めています。
近年ではサスティナビリティや環境に対する関心の高まりから、環境負荷の低い素材の採用や省エネ化が進められており、化学系の活躍する場はより増えていくでしょう。
例えばパナソニックではリチウムイオン電池の組成検討や工場の省エネ化検討を化学系出身の社員が担当しています。他の電機メーカーでは、家電を構成する樹脂を工場で上手く流し込めるよう樹脂の流動に関する実験が行われているほか、レーザー加工機の設計に光学・熱力学的実験が行われています。
具体的に化学系職員がどのように活躍できるか調べたい場合はメーカーの採用ページが参考になります。
食品・飲食業界
食品・飲食業界は化成品を合成しているわけではありませんが、会社の構造が化学メーカーに似ています。研究開発部は原料の組成、生産の条件を変化させてより良い製品を開発し、生産技術職は安全・衛生を考慮しながら現場を管理します。
そして分析部は様々な分析機器を駆使して製品に異常が無いかを確認します。このように、生産・開発に携わる部署では化学・生命系出身の社員が勤務しています。
化学業界で生命系学生だけを対象にした採用は農薬関連に限られ、比較的少ないですが、植物の細胞・繊維に関する研究を行う企業もあるため食品業界では積極的に採用されています。
実際に人の体内に入るものなので正確性や精密さが求められる業界です。より清潔感や的確さに注意して面接に挑みましょう。
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化学メーカーでの事業多角化
電気電子部品(旭化成)
プラスチックなどの石油化学製品、鉄鋼などの素材開発は日本のお家芸でした。しかし中国・韓国経済の成長により現地でもこうした基礎原料は生産され、価格競争において日本の化成品は優位性を失っています。
このような背景から日本の化学業界は事業多角化を進め、先端部品の開発を担うようになりました。旭化成では従来の基礎化学品や建材、医薬品に加え、スマートフォンの方位特定に欠かせない電子コンパスを生産しています。
先端材料の開発には常に新しい技術や時代の流れを掴んでおくことが必要です。単に化学的な専門知識や論理的思考力だけでなく、情報収集力も求められるでしょう。
食品機能材(カネカ、三菱ケミカル)
以前は化学メーカーが高付加価値の医薬品にも参入し、利益の増大を狙う流れが見られていましたが、近年では食品機能材への参入が見られます。
自社生産の原料や分析機器が応用できるほか、長年の事業展開で培ってきた物流力を活かすことができます。カネカではマーガリンなどの油脂類を生産するほか、高齢者の間で需要が高まる健康食品を生産しています。
三菱ケミカルでは食用酢酸・乳化剤などの基礎材料の生産から、気候に左右されない植物工場の設計まで担っています。こうした事業では食品・飲食業界同様に精密性や安全性を考えながら働くことができる人材が求められます。
理系就活で業界・企業名に囚われない選び方
セグメント情報から事業内容を把握する
一見、待遇や福利厚生が良いように見える大手化学メーカーでも事業多角化によって様々な事業を展開しており、入社後に自分の専門性を活かせる仕事ができるかどうかは分かりません。
一方で自分にとって興味のありそうな分野の社名でも、実際の事業内容が異なる場合があります。前述の日本化薬の主力事業は火薬ではありません。企業がどの分野・生産に注力しているかは決算書の「セグメント情報」から確認できます。上場会社であれば投資家向けのIR情報ページがありますので、最新の決算短信を確認し、会社全体の売上高に対して各事業セグメントの売上高がどの程度か確認しておきましょう。
研究開発費を調べる
入社後に研究開発関係の職種に就くことができるかは、その企業の研究開発費から判断できます。会社規模によって開発費は異なりますので、売上高研究開発費率を調べると良いでしょう。
決算書から計算するのは面倒ですが「○○企業名 売上高研究開発費率」で検索するとすぐに見つけられます。競合他社と比較し、どの程度研究開発に力を入れているか確認しましょう。
極端な例ですが研究開発を外注していたり、開発部という名称でも実際は生産管理しかしていないという例もあります。入社後に思い違いをしないためにも一度確認しておきましょう。
自分のやりたい仕事があるか
興味のある製品・事業を展開する企業でも、実際に働いてみるとちょっと違うと思うかもしれません。反対に、興味のない事業でも実験内容自体は自分の専門性を活かせる職種があるかもしれません。
業種や分野での企業選別も重要ですが、職種や仕事内容も考慮した方が良いでしょう。
その企業の社員が実際に行っている仕事内容は採用HPの先輩社員の紹介から確認することができます。中小企業であればそのようなページが無いかもしれません。
その場合は中途採用を調べ、具体的にどのような仕事を募集しているか確認しましょう。業務内容の具体性は新卒より中途採用ページの方が高いと言えます。
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これだけは知っておきたいポイント(まとめ)
1)川上から川下へ行くほど専門性は高まる
2)化学・生命系を求めるのは化学メーカーだけじゃない
3)事業多角化で多彩な人材が求められる
4)会社の表面だけでなく内部まで見て選ぼう