就職活動⇒入社前の準備期間⇒入社1年目、この期間は人生の転換点となる最も重要な期間です。

特に理系にとって入社までの期間は卒業研究や論文作成を進めながらの忙しい時期ですが、この期間の過ごし方が後のキャリアを大きく左右することになります。

研究職特有の就活事情や入社してすぐの新人が心得ておくべき考え方を紹介します。

研究職の理系就活について

研究成果はあまり関係ない

就活中の理系学生の間では研究成果に関する話が話題になります。「新規物質を使ってデバイスの性能を向上させる研究に携わっていたが、目標とする性能を達成できなかった」、「新しい合成法の構築を進めていたが失敗続きで構築できなかった」など、研究が上手くいかなかったことが採用に影響するのではないかと心配する方も多いでしょう。

しかし心配する必要はありません。採用活動において注目されるのは研究の成果ではなく、目的に沿った研究ができているかどうか、研究内容を理解しわかりやすく説明できるかどうかです。

アカデミアでの研究内容が企業の研究内容と関連することはほとんど無いため、アカデミアの研究が入社後にどの程度役立つかではなく、研究職としてのどのように研究を進めたかというプロセスや、研究への向き合い方などを確認することで、研究者としての素質を志願者が有しているかが重要なのです。

研究成果は関係ありませんが研究分野は採用にある程度影響します。

例えば農薬を生産するメーカーであれば生物系の研究室出身の学生が採用されやすく、プラスチック関連のメーカーであれば高分子を専攻する学生が選ばれやすくなります。

研究内容を口頭で説明できるか

理系の就活では履歴書と自己アピールの他に研究内容をA4用紙1~2枚程度にまとめ研究概要(研究レポート)を提出します。

研究概要はそれを見ただけで採用担当者が概要を理解できるかどうかがポイントです。

社内の研究開発担当者が読むことが前提ですが、分野の異なる人が理解できないような用語を載せる場合は注釈をつける必要があります。

事前に研究概要を提出することが多いですが、面接の場では採用担当者がレポートを見せずに研究概要を説明するよう求めてくる場合があるため、研究概要を見なくても口頭で説明できるようにしましょう。

また、文系の人事担当者同席の場合も多く、文系の人でも理解できるように説明を求めてくる場合もあるため、2パターンの説明を用意しておきましょう。

入社後は口頭で説明する機会が多々あります。社外報告といった正式なものでなくても、上司への報告や、例えば分析部にサンプルの分析を依頼するといった部署間の報告で研究概要を説明する必要があります。

口頭で簡潔に説明できる能力は常に求められます。

協調性、コミュニケーション能力

協調性やコミュニケーション能力は研究職こそ重要な技能です。アカデミアでの研究は学生それぞれにテーマが与えられるため、個人的に会話することがあっても研究ではそれぞれが黙々と実験することが多いでしょう。

しかし企業の研究ではアカデミアより協力して研究することが多くなります。1日に試行可能な実験数を増やすために複数人で作業を担当したり、建設的な実験を立案するために相談しあいながら計画を立てます。

他の同僚が担当する研究テーマでも、報告日が近づくと補助のために自分も担当するような場合があるため、普段からコミュニケーションを取りつつ情報交換をする必要があります。

コミュニケーション能力は面接を通じて計られますが協調性は何気ない質問の中から評価されることになります。

趣味やサークル活動を聞かれたときに余り独りぼっちで過ごしている印象を持たれないようにしておきましょう。

理系就活生の入社前までの期間

予め勉強しても余り活かせない

無事、就活も終わり人生最後の休みともいえる春休みがやってきました。

入社前に勉強して研究職としての良いスタートを切りたいと考えるかもしれませんが、余り勉強しすぎないようにしましょう。

企業における研究内容の詳細を外から把握することは難しい上に、例えば農薬の研究職であっても農薬全般ではなく非常にニッチな細胞の活動を研究するかもしれません。

大学で学んできた数年間の内容に匹敵する分野を新たに企業でも学ぶことになるため、事前の勉強はあまり意味がないのです。

そして研究職は教科書を勉強する仕事ではなく新たに教科書を作り上げるような仕事ですので、実験をして企業独自の技術ノウハウや技術知見を積むことが重要なのです。

企業から与えられた入社前の課題に取り組みつつ、あくまでも業界全般のことや概要をまとめた参考書を1冊読む程度にとどめておきましょう。

特許は読めるようにしましょう

アカデミアでの研究で特許を参考に実験を進めた方は少ないかもしれません。各研究室が行っている研究内容に近い分野の雑誌を参考に実験することが多いと思われます。

企業では特許使用料を徴収したり、競合メーカーの製品化を阻止するために率先して特許を取ろうとします。

極秘にしておきたいなどの例外もありますが、基本的には特許の内容がその会社の最新に近い(出願から公表まで3年程度かかる)研究成果を表しているため、研究職の方は必ず特許の解読や執筆を行うことになるでしょう。

特許の難しいところはその表現です。アカデミアで公表される論文は再現性が取れることが求められるため、他の実験者がやっても同じ結果が出るように書かなければなりません。

表現も読みやすく書かれています。一方特許は、範囲が広いほど執筆者にとって有利になるため、特許範囲が広がるような独特の書き方がされます。

例えば「化合物A、B、Cが使えるが、最も良い結果が出るのは化合物A」と表現すればよいところを特許では「化合物としてはA、B、Cが使えるものの、Aを使う場合がより望ましい」といった曖昧な表現が多用されます。

入社前に何かしたいということであれば数本程度読んでおくと良いかもしれません。

今のうちに遊んでおきましょう

様々なアンケートでも社会人が最も欲しいものは時間と言われています。研究職の収入は比較的高いため海外旅行に行くための資金はすぐ得られ、入社してローンを組んで新車に乗ることも可能です。

お金はあるのですが使うための時間がありません。特に同じ研究職採用であればお互いに地方に転勤となり、めったに会う機会がなくなるため大学の同期と遊ぶ機会は入社前の春休みが最後になります。

趣味に没頭する時間もなくなり、社会人になってからは3日連続でゲームをすることもできません。学生時代にやりきれていないことがあれば入社前に思う存分やっておきましょう。

メーカーに就職の場合、配属先は地方になることが多いので自動車免許を取得していない人は合宿などで免許を取得するようにしましょう。

理系就活の入社1年目の過ごし方

新たな学問を学ぶ姿勢で

前述の通り研究職では入社前に学ぶ意味はなく、入社してから経験した内容が研究開発に活かせるようになります。

得られた実験結果を元に、特定の物質を使うと製品の性能がどの程度変化するというデータが蓄積され、そのデータを元に次の実験計画が立案されます。

ガラス、セラミックス、プラスチックといった普段から目にする日用品でも、その物質ができるまでに数百の実験が積み重なっており、分厚い参考書数冊分の知見が含まれています。

そしてこの知見が無ければ自分で実験を計画することができないため、入社してすぐの間は上司の実験補助をしつつ空いた時間に過去の知見を学ぶ事が業務になるでしょう。

アカデミアの研究で経験した内容を活かしたいと考えるのではなく、右も左も分からない身として新たな学問を学ぶような姿勢で研究開発に取り組むようにしましょう。

上司の考察の仕方、実験の立案方法を学ぶ

アカデミアでの研究は原理の探求が目的であるのに対し、企業の研究は製品化が目的です。同じ実験器具を使っていたとしても違うアプローチで使われているかもしれません。

目的が異なるため考察の仕方や立案方法が違います。例えば吸光度の高い物質の開発が目的だとします。

アカデミアでは論文や知見を元により吸光度が高くなりそうな構造を推定し、合成を始めますが、企業ではコストを考えたうえで実現可能な構造を選定しなければなりません。

また製品の性能を考えた場合に、吸光度が高くなっても安定性といった他の性能が下がってしまえば製品として成り立たないため、背反を考えて計画を立案しなければならないのが企業における研究です。

新人の頃は実験の作業ばかりで考察や立案を担当しない場合があるかもしれませんが、いざ自分が立案する立場になった時のために上司の考察、立案方法を学ぶようにしましょう。

教科書に答えは無い、教科書を作る仕事

アカデミアでは学部で3年間授業メインの生活を過ごした後に研究に携わるため、教科書から学ぶ事の重要性が身についていると思います。

研究室に所属してからも雑誌会を通じて論文を読みながら研究に活かす形ができており、文献を参考にする癖がつくでしょう。

もちろん文献も重要ですが研究職としての業務ではアカデミアほど参考にならなくなります。

企業で行われる研究はより秘匿性が高くなり、よりニッチな分野になります。

その分野の参考書を探しても2、3冊程度しかなく、アカデミアの論文を参考にしようとしてもコスト度外視なので参考になりません。

特許が唯一の手掛かりになりそうですが、競合他社は積極的に情報開示しません。そのため一旦文献を頼ろうとする姿勢から離れる必要があります。

企業の研究職は自分自身がその分野の先端を歩み、自らの経験だけが頼りになる仕事です。自らが教科書を作る気持ちで実験に取り組みましょう。

学び、それを活かそうとする姿勢

入社してすぐは上司の実験補助や結果をまとめるだけの仕事が多いかもしれません。

アカデミアでの研究のように自分で計画を立案して実験を進めるような自由度がないため、当初はやりがいが失われてしまうという話も聞かれます。

しかしすぐに自分も一人前の研究者になるんだという気持ちを持ち、普段の実験作業から学べる部分は学んで活かそうとする姿勢を持ちましょう。

これだけは知っておきたいポイント(まとめ) 

1)就活では相手に合わせて研究をわかりやすく伝えるようにする

2)企業での研究は実践ありきの地味な努力の連続

3)入社後は常に学ぶ姿勢を