就職活動を始めるにあたって、まず「自己分析」に取り組まれる人がほとんどではないでしょうか。自分の長所や短所、考え方などを整理して「志望」や「適性」を具体化する作業が自己分析です。

自己分析にはいくつか種類があります。自分の半生を振り返り価値観を明確にする「自分史分析」などが有名ですね。

過去の出来事を振り返る自己分析法が一般的とされていますが、この記事では少し変わった自己分析法、過去ではなく現在の自分を掘り下げる「なぜなぜ分析」をご紹介します。

論理的な思考を得意とする、理系学生の皆さんにぴったりな方法です。

なぜなぜ分析とは?

なぜなぜ分析とは?

なぜなぜ分析とは、名前の通り「なぜ?」を繰り返すことで物事の本質を理解する方法です。自己分析の方法を説明する前に、なぜなぜ分析の概要と主旨について説明します。

トヨタ自動車が提唱する問題解決方法

なぜなぜ分析は元々自己分析の方法ではありません。トヨタ自動車の生産方式の中で生まれた問題解決の方法です。

生産現場で発生した問題や事故を分析し、具体的な再発防止対策を立てる上で発案されました。

起こった出来事を時系列順に並べ、「なぜ」と問いかけることでその出来事が起こった原因や背景を知ることが可能です。

「なぜ」による深堀りは1回ではなく複数回、4~5回ほど繰り返すのが効果的といわれています。

生産現場での使用例

生産現場でのなぜなぜ分析の活用方法について、工場内で起きた軽微な事故を例に説明します。

事故の内容:

工場の通路で荷物を運んでいたところ、急に台車が傾き荷物が崩れた。慌てて荷物を支えようとした作業員が転倒。頭に切り傷を負って5針縫うけがを負った。

・なぜ①なぜ台車をおしていたのか
→荷物を運ぶため

・なぜ②なぜ荷物を運ぶ必要があったのか
→搬入口に原料を積んだトラックが到着し、受け取った原料を倉庫に搬入していた

・なぜ③なぜ転んでしまったのか
→台車のタイヤが配線に引っかかり荷物が崩れた。

・なぜ④なぜ荷物がくずれたのか
→荷物を大量に、雑に積んでいた。

・なぜ⑤なぜタイヤが配線に引っかかったか
→通路の一か所を横断する形でに配線が這わせてあった。

・なぜ⑥なぜ切り傷になったのか
→転んだ先に設置されていた倉庫ラックの角が尖っていた

上記の例では事故を6つの「なぜ」で分解し、いくつかの原因を特定しています。

①と②は荷物を運んでいた理由に対しての「なぜ」ですね。ここでは特に問題は確認出来ませんでした。

③では作業員が転んだ原因、④と⑤は荷物が崩れた理由への「なぜ」を分析しており、この時点で「荷物の積み方」「通路に這わせてあった配線」の問題が明確化します。

さらに⑥の分析により、ケガの原因は「ラックの角が尖っていた」という第3の問題に起因していることが発覚しました。

なぜなぜ分析の結果、得られた事故の再発防止策は以下の通りです。

1.荷崩れ防止の保護ベルトの徹底、積載する高さの遵守

2.配線をスロープ付きのカバーで覆い段差を無くす

3.トラックの角にクッション材を設置する

課題や問題の見える化に効果的

前項では、なぜなぜ分析によって1つの事故に対し、3つの問題点が確認できました。

課題や問題を分解し掘り下げていく過程で、事象の根本を「みえる化」できるのが、なぜなぜ分析の特長です。

なぜなぜ分析の言葉を知らなくても、皆さんは日々の研究や実験で課題の掘り下げを行っているのでは無いでしょうか。

普段からサイエンスの領域にいる理系人材にとって、なぜなぜ分析は相性の良い分析方法といえます。

なぜなぜ分析を理系就活の自己分析に応用してみよう

なぜなぜ分析を理系就活の自己分析に応用してみよう

なぜなぜ分析の概要については理解いただけたと思います。次は実際に、なぜなぜ分析による自己分析の方法について詳しく説明していきましょう。いくつか分析例を交えて解説します。

自身の価値基準・判断基準を知る

なぜなぜ分析が自己分析の方法として優れているのは、「自分の価値基準・判断基準の軸」をつかめる点です。

自己分析は就職活動のスタートといえますが、それでは就職活動のゴールとはなんでしょうか。

それは「良い就職=幸せな就職」をすることです。幸せな就職の定義は人によって異なります。

・学歴と経験を生かして高い給与を得たい

・ワークライフバランスを重視したい

・大企業で社会に影響を与える大事業に関わりたい

・若いうちから裁量権を持って業界の前線で活躍したい

就職活動を成功させるためには、上記のようにゴールを明確にする、つまり「自分にとっての幸せな就職とは何か?」を事前に定義づける必要があります。

なぜなぜ分析は定義づけのための価値基準、判断基準となる軸を設定する上で、優れた自己分析方法です。

好きな言葉・格言から自分の理想像を読み解く

実際になぜなぜ分析を使って自己分析を行ってみましょう。

まずは、好きな言葉や格言から、社会人としての理想像を考えます。例として「好きこそものの上手なれ」のことわざをテーマになぜなぜ分析を行います。

好きな言葉:好きこそものの上手なれ

・なぜ①:なぜこの言葉が好きなのか
→人間の成長の本質を突いていると思うから

・なぜ②:なぜそう思うのか
→過去、夢中になって取り組んだことで成長できた経験が多いから

・なぜ③:なぜ成長にこだわるのか
→世の中には成長しなければ見えない範囲がある。自分の見識を広げたい。

・なぜ④:なぜ見識を広げたいのか
→見識を広げることで自身の能力が高まる。出来ることが増えるのはうれしい。

上記の例では、当事者が「成長と見識」にこだわりを持っていることがわかります。

好きの理由を分解することで「自己成長によって見識を広げるために、なるべく自分が興味を持てる環境にいたい」という軸が理解できました。

この軸を元に、「自分が興味を持てる領域はなんだろう」「逆に興味のない業界に就職した場合、自分は頑張れるだろうか」など、希望する業界や職種の幅について方針が立てられます。

嫌いな理由、つまらない理由から自分の興味を知る

自分の軸を知るうえで、好きなことと同様に重要なのが「嫌いなこと、苦手なこと」です。

自分が何に対してマイナスの感情を抱くかによって、逆説的に自分の興味・関心を明確化できます。例えば、下記の例でなぜなぜ分析を行ってみましょう。

最近つまらなかった出来事:B社主催の企業セミナー

・なぜ①:なぜつまらなかったのか
→全体的にダラダラと冗長に感じた。

・なぜ②:なぜそう思うのか
→一人で黙々と行う作業や課題が多かった

・なぜ③:なぜ一人で行う課題がつまらないのか
→一人で取り組むよりも、グループディスカッションを行う方が好きだ

・なぜ④:なぜグループディスカッションが好きなのか
→他人と意見を交わすことで、より優れた答えが得られるから
→グループで課題に取り込んだほうが効率が良いから

上記の例では、起業セミナーがつまらなかった理由から「一人で突き詰めるよりもチームでの取組みを好む」「スピード感と効率を重視する」二つの気質を浮彫りにできました。

このように「なぜ嫌いか」について注目することも、自己分析を行う上で重要です。

その職業に就きたい理由は何?なぜなぜ分析で軌道修正

現在就職活動中の皆さんは「開発職になりたい」「研究職がいい」などそれぞれの志望をお持ちだと思いますが、その理由について説明できますか。

漠然とした自分の志望を深掘りすることで、目指す方向性が変わる場合もあります。

希望職種:開発職に就きたい

・なぜ①:なぜ開発職?
→新しいものに取り組んで価値を生み出したい

・なぜ②:なぜ価値を生み出したい?
→世の中に役に立ちたい
→なんとなくこだわってはいたが、別に新しい価値でなくてもいいかもしれない

・なぜ③:なぜ世の中の役に立つものを生み出したい?
→自分自身の手を動かして物を作るのが好き
→作ったものが褒められたり喜んでもらえるとうれしい

・なぜ④:なぜ喜んでもらうとうれしい?
→喜びの声や笑顔に接するのが好き。
→自分が役に立っていることを実感出来る

上記の例では、②の段階で「新しい価値の創造」にはあまりこだわりが無いことに気づきました。

「社会貢献に価値を感じるのであれば、基礎研究よりも社会との距離が近い応用研究の方がいいのではないか」

「自分自身で生み出すことにそこまでこだわりがなければ、顧客に直接接する技術営業も向いているのではないか」

など、なぜなぜ分析によって進路の軌道修正が出来た、もしくは進路の幅が広がったことがわかります。

ちなみに上記の人材がメーカーを志望した場合、以下のような基準で企業を選ぶとよいでしょう。

・電気電子系:
最新技術で高性能な製品を新規開発する部品メーカーよりも、完成品を組み上げて販売する機械メーカー(社会貢献を実感できる機会が多い)

・建築系:
大手ゼネコンで受発注調整の仕事より、中堅建設会社での施工管理
(よりエンドユーザーに近い距離感で仕事ができる)

理系就活のなぜなぜ分析をするときのコツ・注意点

なぜなぜ分析の実践方法は理解いただけたと思いますが、実際にやってみる前にもうひとつ。なぜなぜ分析で自己分析をするコツと注意点について確認しておきましょう。

建前ではなく本音で

なぜなぜ分析は自分の本質を掘り下げていく自己分析方法です。誤解を恐れずにいえば「建前=嘘」の意見が交じってしまうことで、自身の軸についての理解がぶれる可能性があります。

エントリーシートにまで自分の弱点を書く必要はありませんが、自己分析の時点では「苦手なこと」「不得意なこと」についてもあえて触れるようにしましょう。

自分の弱点を明確にすることは、避けるべき業界や向いていない職種を取捨選択し、就職活動における「デッドライン(譲れない条件)」を設定するのに役立ちます。

「なに」で選択肢を広げ「なぜ」で深化

なぜなぜ分析は、価値観を深く狭く掘り下げていく自己分析です。そのため、質問によっては「なぜ」を繰り返すことで、選択肢が狭まっていくことがあります。

分析にはそれなりの数のサンプルが必要です。そのため、一パターンのなぜなぜ分析で軸を理解したつもりにならず、複数の「なに=何が好きか、何に興味があるか等」を用意し、それぞれの「なに」に対して、繰り返しなぜなぜ分析を行うことをお勧めします。

複数の「なぜ」から共通する価値観を導くことで、就職活動の軸を明確にするよう意識しましょう。

これだけは知っておきたいポイント

理系就活向けの自己分析方法として「なぜなぜ分析」を解説しました。この記事のポイントを以下にまとめます。

1.なぜなぜ分析は自分の価値基準・判断基準の軸を理解するための自己分析方法

2.出来事や事柄に対して「なぜ」を複数回繰り返し、そうなった背景や考え方を深掘りする。

3.なぜなぜ分析は「建前」ではなく「本音」で!

最後に、なぜなぜ分析のテーマをいくつかご紹介しますので、是非実践してみてください。

直近一年で頑張ったこと

・大学三年間の一番大きな失敗について

・自分の好きな名言・格言を3つ

なぜなぜ分析が「幸せな就職」にたどり着くためのお役にたてば幸いです。