こんにちは。理系就活情報局です。

「大学院って結局、何をするんだろう?」「このまま就職すべきか、それとも大学院に進むべきか…」

令和5年度学校基本調査によると、理系学生の約40%が大学院へ進学しています。理系学生にとって、大学院進学か就職かは誰もが一度は考える話題です。
本記事ではそんな皆さんの迷いを解消するために、大学院進学のリアルを徹底解説します。大学院での生活、得られるスキル、そして気になる就職への影響まで、メリット・デメリットを交えながら深掘りしていきます。本記事を読めば、進路選択のモヤモヤが晴れ、あなたにとって最適な道を選ぶための判断基準がきっと見つかるはずです。一緒に「大学院」という選択肢を深く掘り下げていきましょう。

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大学院とは?

大学院とは?

大学院について、多くの人が「学部よりもさらに専門的な研究をする場所」と漠然と想像しているでしょう。大学院は学部で培った基礎知識の上に、より深い専門性を追求し、未解明の課題に挑戦しつつ新たな知を創造していくための高等教育機関です。

単に知識を詰め込むだけでなく、「課題の設定→仮説の検証→成果を論文として発表」というプロセスを頻繁に行います。論理的思考力、問題解決能力、情報収集・分析能力、プレゼンテーション能力など、将来に不可欠なスキルを習得できるのが大学院の大きな特徴です。

本章では大学院の種類や修士課程・博士課程の違い、大学院の学費について説明します。

大学院には4つの種類がある

大学院には、以下4つの種類が存在します。

①学部を持つ大学院
②独立研究科
③大学院大学
④専門職大学院

①学部を持つ大学院

ほとんどの理系学生は学部で所属していた研究室の延長線上で、大学院へ進学します。例えば、工学部のある大学に工学研究科という研究機関があるなどのケースです。学士課程で得た専門知識を土台として、さらに深く、より高度な研究を行います。教員や先輩大学院生と共に、新素材の開発、AI技術の応用、ゲノム編集など、学術的意義だけでなく社会貢献性の高い研究も多く行われます。実験や論文執筆に明け暮れる日々の中で、研究者としての基礎体力を養えます。

②独立研究科

独立研究科とは、学部組織を持たない研究機関です。

学部にこだわらず、様々な学部出身の学生を受け入れます。そのため、様々な分野の学問を融合しながら研究を進めることで、新しい視点、新しい研究ジャンルを生み出せるようにしています。例としては「エネルギー科学研究科」で、国際的視点や環境問題、エネルギー問題など、文理両方の知識を活かして研究を行います。

③大学院大学

大学院大学は、そもそも学部を持たず、特定の分野に特化した研究・教育を行う機関です。特定び分野で必要な高度な知識を習得するための専門的なカリキュラムが組まれており、プロフェッショナルの育成に重きを置いています。

代表的な大学院大学として、総合研究大学院大学があります。ノーベル物理学賞を受賞した小林誠氏は総合研究大学院大学の名誉教授であり、同大学の基盤機関である高エネルギー加速器研究機構の特別栄誉教授でもありました。

④専門職大学院

研究そのものよりも、高度な専門知識と実践的な能力を身につけ、特定の職業分野で活躍できる人材の養成を目的とする大学院です。法律家を目指す「法科大学院」が有名ですが、理系であればMOT専門職大学院(技術経営専門職大学院)などがあります。専門職大学院の修了者には、技術経営修士などの学位が与えられます。

修士課程と博士課程がある

ほとんどの理系学生が進む「学部を持つ大学院」には、一般的に修士課程と博士課程の二つの課程があります。

修士課程(博士前期課程):研究の基礎を固め、専門性を深める2年間

博士前期課程として呼ぶケースもありますが、一般的に修士課程に相当する期間は2年間です。修士課程では学部で学んだ知識をベースに、より専門的な研究手法を習得し、自らテーマを設定して研究を進める能力を養います。具体的には、以下のような活動が中心となります。

修士課程で主に取り組む活動概要
文献調査・情報収集自分の研究テーマに関連する国内外の論文を読み込み、先行研究を深く理解する
実験・データ解析自ら実験計画を立てて実行し、得られたデータを科学的に分析する
研究発表・議論研究室内のゼミや学会で、自分の研究成果を発表し、多角的な視点から議論を交わす
修士論文の執筆2年間の研究の集大成として、独創性のある研究成果を論文にまとめる

修士課程は、研究者・技術者としての土台を築く期間です。、将来的に企業の研究開発職や技術職を目指す理系学生にとって、必要な知識とスキルを身につけるための重要なステップとなります。

博士課程(博士後期課程):自立した研究者として新たな知を創造する3年間

博士課程は、一般的に3年間です。修士課程で培った能力をさらに発展させ、自立した研究者として独創的かつ高度な研究活動を目指します。

博士課程は、特定の専門分野において世界レベルの研究成果を生み出すことが求められる期間です。学会発表や論文投稿を積極的に行い、国内外の研究者と交流して自身の研究をさらに深化させていきます。博士課程を修了すると「〇〇博士」の学位が授与され、大学や研究機関の教員・研究職、企業の高度専門職など、より専門性の高いキャリアパスが開けます。

大学院にかかる学費

大学院進学には以下の学費がかかり、進学を検討する際には必要な金額を事前に把握しておくことが大切です。

【大学院の費用の目安】

国立大学公立大学(※1)私立大学(※1)
入学金282,000円392,391円(※2)249,985円
年間授業料535,800円538,734円798,465円(※3)
2年間の概算1,353,600円1,469,859円2,519,165円

(出典:文部科学省「国公私立大学の授業料等の推移」「私立大学等の令和5年度入学者に係る学生納付金等調査結果について」)
※1 公立大学と私立大学は平均
※2 地域外から進学した場合。地域住民には学費減免措置がある場合も
※3 私立大学大学院では授業料の外に施設設備費や実験実習費が必要で年間平均総額1,134,590円がかかる

学費以外にも、生活費や研究費(学会参加費、論文投稿料など)も考慮に入れる必要があります。奨学金制度やTA(ティーチングアシスタント)、RA(リサーチアシスタント)制度などを活用すれば、経済的な負担を軽減できる場合もあるため、調べてみることをおすすめします。

大学院生は学部生とどこが違う?

大学院には進む方法は内部進学と外部進学の2種類がある

大学(学部)と大学院では、同じ「学生」という立場でも、学びの深さや研究への関わり方、そして日々の過ごし方に大きな違いがあります。端的に言えば、大学が「学ぶ場所」であるのに対し、大学院は「探求し、創造する場所」へと変化します。

学部・修士・博士の学生生活を比較

ここでは、東京工業大学(現・東京科学大学)の事例第12回全国院生生活実態調査を参考に、学部生、修士課程学生、博士課程学生の一般的な1日の流れや活動内容を比較してみましょう。あくまで一例ですが、各課程で求められることの違いが見えてくるはずです。

【学部生・修士生・博士生の学生生活イメージを比較】

学士課程学生、大学院生のある1日 それぞれの過ごし方第12回全国院生生活実態調査を元にTECH OFFER作成)

勉強時間はどのくらい?

学部生の中には、「大学院に行くと勉強や研究が大変になるのではないか」と思っている人も多いかもしれません。そこで、次は実際の勉強や研究、卒論などに費やす時間を、大学経営・政策研究センターが発表した「大学生・大学院生調査」を元に、学部生と修士生、博士生で比較してみましょう。

【学部生はどれだけ卒業研究や授業に時間を費やしている?】

(出典:『第2回全国大学生調査(2018)_第1次報告書』を元にTECH OFFER作成)

上記の統計を見ると、普段から理系学生(理学部・工学部・農学部)が、授業や課題に多くの時間を費やしていることが見て取れます。一方で、卒業研究に26時間と多大な時間を費やしている学生が18.3%いるのに対し、ほとんど時間を費やしていない学部生も一定数います。

次に、修士生がどれだけ勉強や実験、研究に時間を費やしているかを見てみましょう。

【修士生はどれだけ論文や実験・研究に時間を費やしている?】

(出典:『大学院生調査(2025年)』を元にTECH OFFER作成)

修士に入ると、授業よりも修士論文のための研究の方に大きく重心が移行しているのがわかります。修士生の20.1%が「31時間以上」研究に時間を費やしており、共同研究やその他の研究など取り組む活動も広がっている状況です。

博士課程になると、上記の傾向はさらに明確化していきます。

(出典:『大学院生調査(2025年)』を元にTECH OFFER作成)

博士課程に入ると授業はほとんどなくなり、学位論文や共同研究、勉強会を含む幅広い研究・学習に割く時間が増えます。

理系大学院生の一日:研究室が「もう一つの家」に

学部生と比較して、格段に研究の割合が高くなる、大学院生の生活を詳しく紹介します。ここでは、東工大で紹介されている大学院生の一日を例に見てみましょう。

  • 9:00:修士課程の授業に出席。専門性の高い少人数講義や、研究室ごとのゼミが中心
  • 10:45:空きコマや昼食。学部生時代と異なり、授業の数は減り、より効率的に時間を活用することが求められる
  • ・13:20:研究室での実験・研究活動を開始。ここからが「本番」で、データ解析、シミュレーション、文献調査、論文執筆など、多岐にわたる作業に集中する。
  • ・21:00:研究室の実験を終え、帰宅。

あくまで一例ですが、ご覧の通り、研究室にいる時間が圧倒的に長くなるのが大学院生活の大きな特徴です。特に、理系の大学院生にとって研究室は単なる勉強場所ではなく、「もう一つの家」と言えるほど多くの時間を過ごすことになります。

「コアタイム」と研究の自由度

研究室によっては、「コアタイム」と呼ばれる「必ず研究室に滞在していなければならない時間」が設けられている場合があります。例えば、「平日の10時から17時まではコアタイム」といったルールです。コアタイムはメンバー間の議論を活発にしたり、指導教員が学生を指導しやすくしたりするために設定されます。


出典:全国大学生活協同組合 大学院生の1日

全国大学生活協同組合(生協)の調査によると、「コアタイムあり」と回答した大学院生は28.5%(文系3.6%・理系33.4%・医歯薬系38.3%)で、修士課程は31.3%に対し博士課程は18.5%でした。また、開始時刻は修士課程が10時台、博士課程は9時台が最も多く、平均時間は修士7.8時間、博士8.5時間となっています。

コアタイムは研究に集中する必要があるため、アルバイトやプライベートの予定を組む際は工夫が必要です。一方で、コアタイムがない研究室や比較的自由な裁量で研究を進められる研究室もあります。

大学院での生活は、学部時代と比べて自己管理と計画性がより一層重要になります。研究室選びの際には、研究テーマだけでなくコアタイムの有無も事前に確認し、自身のライフスタイルや理想とする学生生活に合っているかを見極めましょう。

理系が大学院に進学するメリットとデメリット、そして向かない人とは?

理系が大学院に進学するメリットとデメリット、そして向かない人とは?

大学院進学は、理系学生にとって魅力的な選択肢である一方で、考慮すべき点も存在します。ここでは、進学がもたらすポジティブな側面と注意すべきネガティブな側面、そしてどのような人が進学に向いていないのかも具体的に解説します。上記の情報を総合的に把握し、自分に最適な進路選択の助けにしてください。

大学院進学のメリット~キャリアを開く大きなアドバンテージ

1. 高い専門性と研究能力が身につく

大学院は、学部で得た基礎知識を土台に、さらに応用的な学習と専門性の高い研究に打ち込む場です。最低でも2年間以上の期間をかけて、特定の分野を深く掘り下げます。大学院での学習で、論理的思考力、問題解決能力、情報収集・分析能力など社会で求められるスキルが飛躍的に向上します。

企業は、自ら課題を設定し、解決に導ける「論理的思考力」と「専門知識」を兼ね備えた大学院生を高く評価する傾向が強いです。単なる知識だけでなく、実践的な力が同時に身につくことは大学院進学の大きな魅力です。

2. 就職先の選択肢が広がる

大学院進学の大きなメリットの1つは、就職先の選択肢が大きく広がることです。特に、企業の研究職や開発職など専門性の高い職種では、応募資格を修士課程修了以上としているケースがほとんどです。

学部卒ではそもそも応募できない求人が多数存在するため、大学院に進学すると目指せる職種の幅が格段に広がります。また、エンジニア職においても、より高度な専門知識や技術を求める企業では学部卒よりも大学院卒の方が有利になるケースがあります。目指す業界や職種が、大学院卒を前提としているかを事前に調べておきましょう。

3. 入社後の待遇面で優遇される可能性が高い

理系職種がある多くの企業では、大学卒よりも大学院卒に対して待遇面で優遇されるケースが多いです。具体的には、初任給が高く設定されていたり、昇給や賞与の面で有利な条件が提示されたりする場合があります。待遇が良い理由は、大学院で培った専門性や研究能力が企業にとって高い価値を持つと認識されているからです。もし進学を考えている企業があるなら、あらかじめ大学院卒向けの雇用条件をチェックしておきましょう。待遇面での優遇は進学へのモチベーションにも繋がりますし、長期的なキャリアを考える上で経済的な安定にも寄与します。

大学院進学のデメリット~リスクを理解し対処しよう

メリットが多い一方で、大学院進学には注意すべきデメリットも存在します。これらを事前に把握し、対策を考えることが後悔しない進路選択につながります。

1. 学費負担と収入の遅れ

大学院進学における最も現実的なデメリットの一つは、学費の負担です。国立大学院の場合でもある程度の学費がかかりますし、私立大学院の場合はさらに高額になる傾向があります。また、研究や実験に多くの時間を費やすため、アルバイトなどで学費をすべて賄うのは難しい場合もでてくるでしょう。

加えて、大学院に進学すると社会人としてのキャリアスタートが学部卒と比較して2年(修士課程の場合)遅れるため、収入を得られるる時期も遅れます。経済的な不安がある場合は、奨学金制度やTA(ティーチングアシスタント)・RA(リサーチアシスタント)制度の活用など具体的な資金計画を立てましょう。

2. 授業や研究の忙しさ

授業や研究が忙しくなる点も、大学院に進学するデメリットです。「大学院は授業が少ないから楽」というイメージを持っていると、現実とのギャップに驚くかもしれません。

確かに学部時代に比べて講義の数は減りますが、研究活動の比重が圧倒的に高まります。特に、修士課程の最初のうちは新たな研究テーマへの適応、実験手法の習得、論文の読み込みなどで非常に忙しいです。

「研究が思ったような結果にならない」などの壁にぶつかり、時には深夜まで研究室に残るケースもあります。強い探求心や研究への意欲がなければ、精神的に辛く感じることも多いです。進学を決める前に研究室の雰囲気や研究生活のリアルな忙しさについて、OB・OGや教員から情報収集しましょう。

3. 社会へ出る時期が遅れることの影響

大学院に進学すると、学部卒の同級生より2年(修士課程の場合)程度、社会に出るのが遅くなる点がデメリットです。。「社会人としての2年間」は意外と大きく、学部卒の友人が現場経験を積んでいる頃に、社会人としての一歩を踏み出すことになります。

ただし、上記の時間差をネガティブに捉えるかどうかは個人の価値観や進学の目的によって異なります。もし「なんとなく」進学するだけだと、2年間のブランクがハンデに感じられる可能性が高いです。進学の目的を明確にし、「2年間で何を身につけ、将来どう活かすのか」を具体的に描けていれば、デメリットとは感じないはずです。

4. 身につけた専門性を就職後に活かせない可能性も

大学院で身につけた高度な専門性が、必ずしも希望する企業の職種で直接的に活かせるとは限りません。例えば、志望企業が特定の専門性を持つ人材を求めておらず、募集職種があなたの研究分野と直接結びつかない場合も考えられます。せっかく時間と労力をかけて培った専門性が活かせないとなると、キャリアを積み上げる上で大きなデメリットです。

上記のリスクを避けるためには、志望企業の動向や採用ニーズを常に調査し、「研究テーマが将来のキャリアにどう繋がるか」を具体的に考えましょう。

大学院進学に向いていない人~自分の適性を客観的に把握する

大学院進学は、すべての人にとって最適な選択肢とは限りません。もし以下の特徴に当てはまるなら、一度立ち止まって、本当に進学すべきかを再検討してみることをお勧めします。

1. 就職活動からの「逃避」で進学を考えている

「就職活動が面倒だから」「もう少し学生でいたいから」など就職活動からの逃避が主な理由で大学院進学を考えている場合、後悔する可能性が高いです。大学院での研究は想像以上に厳しく、自律性と高いモチベーションが求められます。明確な研究への興味や探求心がなければ、日々の研究活動が苦痛になり、学業についていくのが難しくなるでしょう。

さらに、2年制の修士課程の場合、修士1年の段階からすでに就職活動が始まります。学部時代よりも厳しいタイムスケジュールの中で、研究と就活を並行して行わなければなりません。

単に、就活を回避するためだけの大学院進学は根本的な問題解決にはならず、貴重な時間と多額の学費を無駄にしてしまうリスクがあります。進学を決める前に、「本当に研究を続けたいのか」「何のために大学院に行くのか」を深く自問自答しましょう。

2. やりたい研究テーマが明確ではない

大学院では与えられた課題をこなすだけでなく、自ら研究テーマを深掘りして主体的に取り組む姿勢が不可欠です。「なんとなく面白そう」「先生が勧めてくれたから」といった曖昧な理由で進学するとモチベーションが続かず、途中で壁にぶつかった際に乗り越えられなくなる可能性が高いです。

また、研究内容が明確でないと自分に合った指導教員や研究室を選ぶのも難しくなります。進学後に後悔しないためにも、「自分が何を深く研究したいのか」「どのような分野に貢献したいのか」を具体的なレベルまで明確にしておくべきです。

3. 修了後のキャリアプランが不明確

大学院で修士号や博士号を取得しても、後のキャリアプランが描けていないまま進学するのは危険です。企業は大学院卒を採用する際、「なぜ大学院に進学したのか」「学んだ内容を自社でどう活かしてくれるのか」という点を重視します。明確な目的意識やキャリアビジョンがないと就職活動で自分の強みをアピールできず、不利になるケースもあります。

せっかくの学びや研究経験を活かせない仕事に就いてしまっては、時間と費用が無駄になったと感じてしまうかもしれません。進学を決める前に、「大学院で何を学び、将来どのような分野で、どのような役割で活躍したいのか」という具体的なキャリアプランを立てましょう。

理系大学院進学の研究・生活・進路:理系大学院生のリアル

理系大学院進学の研究・生活・進路:理系大学院生のリアル

大学院での生活は、学部時代とは大きく異なります。以下では、「研究」「生活」「就活」という3つの側面から、「理系大学院生が実際にどのような日々を送っているのか」、を解説します。

大学院生の研究活動

大学院における最大のミッションは、言うまでもなく研究です。学部時代の卒業研究よりも、はるかに深く、自律的な取り組みが求められます。理系大学院生は、一般的に以下のようなプロセスを経て自身の研究テーマを深掘りし、新たな知見の発見を目指します。

研究テーマを深掘りするプロセス概要
1.興味関心のある分野を確定する漠然とした関心から、具体的な研究テーマのヒントを探す
2.指導教員・研究室で対応可能かどうかを調べる自身の興味と指導教員の研究テーマや研究室の設備・リソースが合致するかを確認する
3.先行研究の調査関連する国内外の論文や学術文献を徹底的に読み込み、当該分野の現状や未解決の課題を把握する
4.指導教員との密な相談研究の方向性がある程度定まったら、指導教員と議論を重ねてアドバイスを受ける
5.仮説の立案と検証先行研究と自身の考察に基づき仮説を立て、検証するための実験計画を具体化し、実行に移す

研究は計画、実行、検証、考察の繰り返しであり、トライ&エラーを繰り返しながら粘り強く取り組む力が養われます。自分自身の研究テーマが決まったら、毎日、多くの時間を費やして研究に取り組むことになります。

【修士大学院生の主な時間の過ごし方】


(出典:『大学院生調査(2025年)』を元にTECH OFFER作成)

なお、論文の探し方をさらに詳しく知りたい人は、以下の記事で説明しているため、ぜひ参考にしてください。

大学院生の生活~研究とプライベートを両立する工夫がカギ

研究が忙しいイメージの大学院生活ですが、多くの大学院生はアルバイトや私生活も両立させています。「大学院生調査」の統計によると、アルバイトを行っていない学生は24.5%にとどまり、多くの大学院生が何らかの形で収入を得ています。そのうち、「1〜5時間」のアルバイトに時間を割いている修士生が24.0%、「6〜10時間」が25.7%と、短時間・週に数日のアルバイトをこなしている学生が多いです。

アルバイトの内容としては、個別指導塾の講師や家庭教師など比較的時間の融通が利く職種に従事している学生が多い傾向にあります。研究活動のスケジュールに合わせて柔軟に働ける点が、大学院生にとって大きなメリットとなるためです。

研究で忙しいながらもアルバイトや趣味の時間を確保するためには、徹底したスケジュール管理と自己管理能力が求められます。効率的に研究を進め、限られた時間を有効活用する工夫が、大学院生活を充実させる鍵です。

大学院生の就職活動~専門性を武器にキャリアを築く

理系大学院生にとって、就職活動は自身の専門性を活かす重要な機会です。学部生とは異なる就活のスタイルや有利な点があります。

一般的に、修士課程1年の春(4月頃)から就職活動を始める学生が多いです。特に、6月には夏季インターンシップへの参加を目指す動きが活発になります。上記の時期から業界研究や企業研究を本格化させ、自身の研究内容と企業の求める人材像を結びつけてアピールする準備を進めましょう。

就職活動に費やす時間について、「大学院生調査」の統計では24.9%の人が「1〜5時間」をあてているとされています。大学院生の就活では、研究や報告、発表など忙しいなかでも効率的に進めている様子が伺えます。

大学院生の就活については次の記事でも詳しく説明しているため、参考にしてください。

理系が大学院進学を迷った際に実施すべきこと

理系が大学院進学を迷った際に実施すべきこと

自己分析を通して進路を見直す

大学院進学をするか迷った際は再度自己分析を行い、進路をもう一度考えてみることが大切です。

本記事で大学院進学のメリット・デメリットを理解できますので、次に知る必要があるのは自分自身のこと。自分がどんな分野に興味があり、どのような仕事をして、社会へどんな価値提供をしたいのかを、もう一度整理してみることがおすすめです。

社会状況と同様、自分自身の内面も時間の経過に従って変化していると言えます。以前に自己分析していても再度自分と向き合うことで、より納得感のある進路を見つけられます。必要に応じて業界・企業も実施すると、今後選ぶべき進路がより明確になるでしょう。

卒業生の就職実績を調べる

大学院への進学はある程度決めているが、それでも心配だという方は卒業生の就職実績を調べることも有効です。

知っている先輩に話を聞いたり、大学のキャリアセンターなどに相談に行ったりすることで就職実績を確認することができます。

調べる内容は、自身が希望する企業へ就職した場合の、大卒と大学院卒の待遇や業務内容・キャリアプランの違いなどが中心。聞き取りした実際のデータをもとに、第三者からのアドバイスも参考にしながら進路を決めるのも良策です。

自分の進路は最終的には自分の責任で決めるもの。後悔のないよう納得するまで実績を調べ、進路を決めるのも良いでしょう。

自分の市場価値を知る

現段階の専門性や能力がどのくらい求められているかを知るため、「TECH OFFER」など企業からのオファーを受けられる就活サイトを活用するのも良い方法です。

TECH OFFERの場合は、就活生がプロフィール(専攻・研究分野・志望業界、職種、勤務地・自己PRなど)を登録しておくだけで、企業から面接やインターンのオファーが届く仕組み。就活生にとっては現在の市場価値を知ることができるツールでもあります。

そもそも企業は就活生のプロフィールを閲覧し、自社に合致する人材にだけオファーを送るため、内定率が非常に高いことも特徴のサービスです。

気になる企業からオファーがあれば直接相談することもできたりと活用の幅も広い、就活を有利にするツールのひとつ。費用を掛けず進路に迷っている段階から利用ができるので、早めに登録しておくと進路を決める後押しをしてくれるでしょう。

\自己分析や企業選び、ESで役立つ/


理系が大学院に行くには?

理系が大学院に行くには?

基本は筆記試験と面接

理系の大学院進学には、筆記試験と面接が基本的な選考方法となります。

一般入試は年2回行われることが多く、8~11月の「秋季試験」と1~3月の「春季試験」が一般的です。

ただし、大学によっては秋季試験のみの場合もあるため、受験予定の大学院の募集要項を確認しましょう。

一般入試

学部卒業後に大学院へ進学する場合、多くの人が利用するのが一般入試です。

一般入試では、専門科目(または小論文)・英語・面接の3つの試験が課されるケースが一般的です。

出願時には研究計画書の提出が求められることが多く、事前の準備が重要になります。

推薦入試

推薦入試は、主に学部からの内部進学時に利用できる入試制度です。

受験資格を得るには一定以上の成績を修める必要がありますが、筆記試験が免除されるなど試験内容が軽減されるケースも多くあります。

そのため、推薦入試を利用するには学部時代から学業をおろそかにせず、しっかりと勉強に取り組みましょう。

また、一部の大学院では一定の要件を満たした学外の優秀な人材に対しても推薦入試の枠を設けている場合があります。

AO入試

AO入試(アドミッション・オフィス入試)は人物を重視した入試形態で、近年では大学院でも導入が増えています。

試験内容は書類審査と面接が中心で、学力試験よりも志望動機や適性が評価される傾向にあります。

また、一部の大学院では学生や社会人といった枠を設けずに実施しており、多様なバックグラウンドを持つ受験者に門戸を開いているのが特徴です。

社会人入試

社会人入試は、主に学部卒の社会人を対象とした入試形態です。

一般入試に比べて試験科目が少なく筆記試験が免除される場合もあるため、受験勉強の負担が比較的軽いのが特徴です。

一般的には外国語試験と面接が課されますが、大学院によっては面接のみの選考となる場合もあります。

社会人入試でも「研究計画書」が重要な選考要素となり、文章作成能力や学ぶ意欲、研究テーマに対する知識・技術が問われるケースが多いです。

また、一部の大学院では「社会人経験3年以上」を受験資格として定めていることがあります。そのため、社会人として大学院進学を検討する際には、事前に受験資格を確認しておきましょう。

大学院入試の特徴・仕組み

大学院入試の特徴・仕組み

大学卒業(学士習得)が必須要件である

大学院(修士課程・博士前期課程)に入学するには、入学資格を満たしていなければなりません。

文部科学省は、「修士課程・博士課程(前期)の入学資格について」で大学院入学の資格を定めています。

入学資格のいずれか1つにあてはまる必要があり、国内の大学に通う理系就活生の場合は、大学卒業(学士習得)が必須要件です。

<修士課程・博士前期課程の入学資格>

・大学を卒業した者
・大学改革支援・学位授与機構により学士の学位を授与された者
・外国において、学校教育における16年の課程を修了した者
・外国の学校が行う通信教育を我が国において履修することにより当該国の16年(医学、歯学、薬学又は獣医学を履修する博士課程への入学については18年)の課程を修了した者
・我が国において、外国の大学相当として指定した外国の学校の課程(文部科学大臣指定外国大学日本校)を修了した者
・外国の大学等において、修業年限が3年以上(医学、歯学、薬学又は獣医学を履修する博士課程への入学については5年)の課程を修了することにより、学士の学位に相当する学位を授与された者
・指定された専修学校の専門課程(文部科学大臣指定専修学校専門課程一覧)を修了した者
・旧制学校等を修了した者
・防衛大学校、海上保安大学校、気象大学校など、各省大学校を修了した者
・大学院において個別の入学資格審査により認めた22歳以上の者

引用:文部科学省は「修士課程・博士課程(前期)の入学資格について

研究計画書が選考評価として重要視される傾向にある

大学院入試では、「研究計画書」や「志望理由書」などの書類が必須です。

特に、研究計画書は大学院での研究テーマや目的をまとめた重要な書類であり、どの受験方式でも重視されます。

口述試験(面接)では研究計画書や志望理由書をもとに質問されるため、面接前に内容を再確認して自分の考えを明確に伝えられるよう準備しておきましょう。

研究計画書には先行研究、研究の目的、方法、意義といった面接で問われるポイントを記載します。

内容が具体的であればあるほど面接ではより本質的な議論ができ、的確な質問を受けられます。

FAQ:理系大学院進学に関するよくある疑問を解消!

FAQ:理系大学院進学に関するよくある疑問を解消!

以下では、理系大学院への進学を検討する皆さんが抱きやすい疑問について、Q&A形式で分かりやすく解説します。

Q1. 大学院は何年通うものですか?

A. 一般的に、修士課程が2年間、博士課程が3年間です。 多くの理系学生は、まず修士課程に進学し、2年間で修士号(理学修士、工学修士など)を取得します。さらに研究を深めたい場合や研究職・大学教員などを目指す場合は、博士課程に進学し、3年間で博士号を取得する流れです。 一部の大学院には、修士課程と博士課程が一体となった5年一貫制の課程や博士課程のみの区分制もあります。

Q2. 大学院には誰でも入れますか?

A. 誰でも入れるわけではなく、大学院に入学するためには大学院入試に合格する必要があります。 大学院入試は、筆記試験(専門科目、英語など)と口頭試問(研究計画発表、質疑応答など)で構成されるのが一般的です。

特に理系の場合、これまでの研究内容や卒業論文、研究室での活動などが重視されるケースも多いです。 入学試験の難易度や形式は大学院によって異なるため、志望する大学院の募集要項をよく確認し、十分な準備を行いましょう。

Q3. 大学院の学費はどのくらいかかりますか?

A. 大学院の学費は、国立は2年間で約138万円、私立大学は年間で約150万円〜250万円以上かかるとされています(詳しくは「大学院にかかる学費」の項目を参考にしてください)。

学費の他にも教科書代、学会参加費、生活費などがかかります。経済的な負担を軽減するためには、日本学生支援機構(JASSO)の奨学金制度や大学院独自の奨学金を検討しましょう。また、TA(ティーチングアシスタント)やRA(リサーチアシスタント)制度などを積極的に利用するのもおすすめです。

Q4. 大学院に入ると、研究以外の活動(アルバイトやサークルなど)はできますか?

A. 研究以外の活動は可能ですが、学部時代よりも研究の優先順位が高くなります。 多くの大学院生がアルバイトを行っており、時間の融通が利きやすい個別指導塾の講師などが人気です。統計データでも、アルバイトをしている修士生が多いことが示されています。

Q5. 大学院卒業後の就職は学部卒とどう違いますか?

A. 大学院卒業、特に修士課程修了は、理系においては就職活動において非常に有利に働くケースが多いです。募集要項にあらかじめ「修士卒」であることを条件にしている企業も多く、学部卒では応募できない求人に応募できるようになります。院卒は待遇面での優遇を受けられるケースが多く、や専門性を活かしたキャリアパスの実現も可能です。

専門性を活かしたキャリアパスを築きたいなら大学院進学を

本記事では「大学院は、何をするところなのか」というテーマを中心に研究や学費、生活や就職まで多方面にわたって解説しました。

大学院は学部で培った知識をさらに深化させ、高度な専門性と問題解決能力を身につけるための貴重な場です。大学院で得られる経験は、自分自身のキャリアパスを大きく広げ、将来的により専門性の高い職種や待遇へと繋がる可能性を秘めています。研究に打ち込む日々は確かに忙しいものですが、多くの大学院生が工夫しながら自身の目標に向かって充実した学生生活を送っています。

しかし、漠然とした理由での進学や明確なキャリアビジョンがないままでは、時間や費用が無駄になってしまうリスクも高いです。本記事で解説したメリットとデメリット、進学に向いている人の特徴を参考に大学院に進むべきか冷静に判断してください。

「学部の段階で就職するか」「大学院に進んでその後に就活を始めるか」

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