AI(人工知能)・IoTなどの新技術は各分野で普及が進んでおり、それまでの企業の形が大きく変わる可能性があります。新技術は業務プロセスの合理化や省人化につながる他、既存製品の付加価値を高める研究開発のレベルを底上げするため、無くてはならないものとなるでしょう。

しかし一方で、コストや経営陣の方針によって新技術の導入を先送りする企業もあり、こうした企業は将来的に地位を落とすかもしれません。これから就活を迎える方々にとって企業の将来性は判断できるようにしておきたいものです。

AI・IoT…新技術は企業に何をもたらすのか

工場の自動化

渋滞を予測し最適なルートで走る自動運転車、表情から人の体調を推測し適切な食事を提案するロボット…報道やニュースではAI・IoTなどの新技術が身の回りの生活を変化させると報じていますが、実際には産業界から導入が進むとみられています。

人件費は企業による出費の大部分を占めるため、コスト削減というインセンティブが省人化につながる新技術の導入を加速させるでしょう。既に導入され始めていますが、製造機械の異常を探知するAIは振動や電力消費量の違いから故障を事前に予測できるため、急な生産ラインの停止を防ぐのに役立ちます。

また、IoTによって全ての工場設備をネットに接続できれば、監視要員の削減や家からの遠隔操作が可能になります。何よりこうした取り組みは人件費削減だけでなく生産合理化にもつながるため、製品コストを下げ、一日の生産量を増加させることができます。

また、画像処理、画像解析技術は製品の品質管理や人員等のセキュリティ管理などに利用されています。

AI・IoTの活用は企業の競争力向上匂いて不可欠であり、この導入が競合の淘汰につながる可能性があります。

文献・実験結果の検索

本社・研究所ではIoTよりもAIの導入が進むと思われます。データ検索AIは探したいテーマに沿った文献を調査し、短時間で膨大な数の論文を見つけ出してくれます。調査に費やしていた時間を本来の仕事である開発に回すことができれば研究開発をより早く進めることができます。

また、個人フォルダ別にExcel・Wordとして保存されている過去の実験データもAIがテーマ別に振り分けてくれます。従来、自分が担当していない案件のデータは上司に聞くか、担当者が既に異動になっていれば電話で聞くなど、ありつくまでに右往左往してしまいがちです。データ検索AIはこうした手間を省いてくれるかもしれません。

似たような技術では画像処理AIが実用化されています。人の目では気づきにくい材料表面の状態や測定チャートのピークなども画像処理AIが特異点に反応し、実験者に気づかせてくれます。

AIを用いた実験計画の立案

AIは人から単純作業を奪うわけではありません。研究開発やデータ分析といった従来人にしかできないと思われていた作業も得意とします。

製薬会社や大手化学メーカーなど、資金力を有する企業では既に実験計画を立案するAIが導入されており、精度向上のために機械学習が実施されています。従来、目的の性能を有する材料・化合物の設計は、知見のある年配社員が予想しながら組成を組むのが一般的でしたが、AIの導入が進めば経験の少ない若手社員でも実験計画を立案することができます。作成した新材料の組成と特性値をAIに入力すれば機械学習が組成・特性値の相関を導き出してくれ、次回設計時により優れた計画を立案してくれます。

このような状況下では、設計・立案することが研究者の仕事ではなく、AIがより的確な計算をできるようプロセスを改良することが研究者の仕事です。つまり化学系だから情報系の知識が不要という事にはならず、その逆もしかりです。

意外にも遅れている新技術の導入

部署間の連絡が書類・印鑑・電話

新技術の導入が期待されるところですが、大企業でも意外に技術の導入は遅れています。

AIのような新技術以前にPCさえも使っていない場合があり、もしくは古いPCを使ってフロッピーでデータをやり取りするような例もあります。

特に遅れがちなのが部署をまたぐやり取りです。作業依頼書や伝票、発注願届など、部署間の書類はペーパーレス化が進んでおらず、若手や庶務が手渡しでやり取りする場合があります。ペーパーレス化の障害の一つが印鑑です。簡易的な書類のために課長・部長の印鑑を集めるのは時間がもったいないですが、印鑑文化が根強い企業では合理化のインセンティブが働かないようです。

こちらも珍しい例ではないですが、年功序列意識の非常に強いある会社では若手が上位者にメール1本で連絡を済ますのは失礼という文化があり、若手がメールをするたびに電話をしなければならないそうです。

古い機器を用いた時間のかかる作業

新しいPCの導入が進んでいても肝心の測定機器や実験機器、工場の製造機器が古すぎる場合は業務が滞ってしまいます。

最大でも十数万円程度のPCは更新されますが、研究開発・生産部門の機械類は1台あたり100万円以上することが一般的であり、更新されていないかもしれません。昭和末期に導入された機器を使い続けている企業も珍しくなく、更新頻度は会社の業績次第といえます。

例えばある素材表面の粗さを測定する際、A社では画像処理を用いて5分間で20箇所を測定できるのに対し、B社では物理的に表面をなぞる機械を使うため、5分間で2箇所しか測定できないと仮定します。同じ20箇所を測定するのに55分も差が出るため、A社の研究員が特許調査など有意義に時間を使えるのに対し、B社の研究員は単なる測定で1時間を使い果たしてしまいます。

このように古い機器を使い続ける企業は作業員が1日当たりに遂行できる業務が他社より少ないため、研究開発の進捗が遅れてしまい、最終的には技術力を有する他社にリードされてしまうかもしれません。

データベース化されていない研究結果

皆さんがアカデミアで所属する研究室では、研究結果はどのように管理されているでしょうか。

おそらく個人のPCごとに管理されていることでしょう。一人に1テーマを担当することが多いアカデミアではそれで構いませんが、企業では複数人による研究の成果が業績に直結するため同じフォーマットで管理されなければなりません。

近年ではIoTの導入によって製造機器や分析機器から取得したデータがクラウド上に転送され、複数の研究員が同時に読み取ることができます。AIも導入されていれば、データから異常を探知し自動で知らせてくれるプロセスを構築できます。このような職場では各研究員にデータサイエンティストとしての能力が求められるため、情報系でなくてもシステム関連の知識が必要になります。

しかし一方で、データベース化が進んでいない企業では実験結果の読み取りやPCへの入力、解決策の考案を人手に頼ることになります。研究職なのに単純な作業ばかりを担当するかもしれません。なお、新技術を積極的に導入する企業ではシステムに対応できる職員を求めているため、面接の際はPCに疎いと思われないようにしましょう。

危険な作業を人の手で

自動化の最大のメリットはコスト削減ですが、作業員の安全性向上もメリットとしてあげられます。

製造現場は加熱や圧縮、切断など危険な業務がたくさんあり、いくら安全策を講じていても人が関わっていれば危険性を排除しきれません。

ちなみに10万人規模のある産業分野では数千社に上る企業が連絡会を構成し、毎月の事故を共有していますが、年間3人程度は工場の事故で亡くなっているようです。自動化が進めば危険な作業を全て機械に任せることができ、事故ゼロを実現できるでしょう。規模の小さい会社では財務上の理由から自動化が進みにくいですが、大企業でも意外に導入が遅れていることもあります。

こうして見抜きたい、技術を更新し続ける企業

技術に疎い企業はコスト・製品で負ける

製造現場のIoT・自動化の導入が進んでいる企業では5人の職員で他社における15人分の業務をカバーできるかもしれません。

製造原価のウェイトを占めるのは業種に関係なく人件費と言われており、10人分の人件費削減は製品コストを下げることができます。そしてAIが導入されていれば機器の異常を事前に探知できるため、急な故障による製造停止を防ぐことができ、売上高の減少を防ぐことができます。

また、研究開発の面でも前述の通り新技術を導入している企業では一人当たりの研究進捗度が高いため、他社よりも短期間で優れた製品を開発できるようになります。技術の導入が遅れている企業はコスト・性能の両面で競争に負け、やがて淘汰される可能性があります。

「企業名 AI・人工知能」で検索する

単純な方法に見えるかもしれませんが、企業がAIや新技術を導入しているかどうかは「企業名 ○○(技術名)」で検索すると分かるかもしれません。

「A社 RPA」で検索するとRPA(※PC上の単純作業を自動化するプロセス)の導入によって数千時間分の業務を短縮できたというニュース記事が見つかります。また、企業HPで新技術の導入を紹介するページにたどりつくかもしれません。単純にAI・IoTといってもイメージが湧かないと思いますが、企業での導入例を参考にすると理解できるでしょう。

もちろん記事が見つからなかったからといって、その企業が新技術を導入していない訳ではありません。ニッチな企業では公表する意味が無く、競合に真似されないよう伏せている可能性もあります。

製造現場を調べてみる

工場設備における新技術の導入は本社での導入よりもハードルが高いため、製造現場での導入が進んでいる会社は財務上、技術上の体力があると判断できます。

企業秘密である工場を見学させてくれる可能性が低いですが、企業HPをたどると工場内部の写真が見つかるかもしれません。新技術の導入は大企業としては宣伝したい内容です。

一方で工場関連の情報を検索しても全く出てこない場合は、企業が伏せたいと考えている可能性があります。化学・素材系の企業に多いのですが、東京の一等地に立派なビルを構えていても工場は古びた町工場に見え、人手に頼った業務プロセスを構築している事は珍しくありません。

自己投資も忘れずに!

これから社会人を目指す就活生にとって、新技術を導入している魅力的です。

今後も市場で高いシェアを維持し続け、社員の福利厚生も良いかもしれません。しかし就活生が企業を選ぶのと同様に企業側も就活生を選んでいます。新技術を率先して導入する企業では社員が各自の専門分野だけでなく、新技術を上手く使いこなす能力も求められます。

情報系以外の学生が就活のためにプログラミングを使い、機械学習を学ぶ必要はありませんが、新聞やニュースで聞かれる新技術がどういったものか理解しておくことは必要です。例え苦手であっても、面接でPCやスマホを使いこなせないとは言わないようにしましょう。

これだけは知っておきたいポイント(まとめ) 

1)産業界からAI・IoTの導入は進む

2)意外に遅れている企業の新技術導入

3)新技術の導入例を調べてみよう