理系就活では専門分野に対する知識や知見が重視されますが、やはりポテンシャル採用という面もあり、仕事に対する意識や熱意という部分でも評価されます。稲盛和夫氏の「仕事の成果=考え方×熱意×能力」のとおり、人事担当者としては熱意や考え方が不透明な志願者は採用したくない、というのが正直なところです。
昨今の状況ではオンライン化が進み、友達と採用面接のシミュレーションを行う機会や仕事観に関する意見交換(=仕事観を成熟させるステップ)が減っているようですが、改めて自分自身の仕事に対する心構えや熱意が成熟したものかどうかを考える必要があります。熱意や意識は面接のみならず入社後の昇進にも関わるところです。他人と差をつけるためにも仕事人として望ましい意識と姿勢を身につけておきましょう。
面接における熱意や考え方の重要性
ポテンシャル採用では「能力」<「考え方×熱意×能力」
諸外国では採用側が職務内容、職位、年収条件をはっきりと提示している場合が多く、志願する側は自分の能力を明確にアピールできれば採用される可能性が高くなります。また、欧米のジョブ型採用では選択したジョブから他のジョブに転換することはなかなか難しい状況にあるようです。
一方で、日本の新卒採用はほとんどがポテンシャル採用であり、志望段階では配属や職務内容、条件が不透明なことが多く、成長に応じて別職種に転換していくことも多い状況です。ですから、従来の日本型の雇用において、企業側は、能力だけでなくポテンシャルを重視しながら新入社員の配属を決める傾向にあります。
このことから、ある特殊な専門能力に軸を置いて採用選考を行うのではなく、採用選考においては、入社後に最低限の技術素養があるかどうかと、仕事に対する考え方、熱意、能力(技能)という汎用的な指標で採用選考の判断を行うことが多い状況にあります。
もちろん、人工知能のスキルや、特殊なデータ解析スキル等を求める企業も存在しますが、概して仕事人としての意識が高く、考え方の軸を持っていることは就職活動において他の応募者と差がつく部分となっています。
どうアピールするか
仕事に対する意識の高さや考え方の軸をアピールする際にぜひアピールしたい点としては、「新しいことを吸収する姿勢」や「チャレンジ精神」「向上心」、「前向きな考え方」「貢献意欲」などです。
日本では人材の流動性が低く、能力の低い社員でも解雇することは極めて難しいため、企業側は新入社員が想定する仕事に対応できないことを恐れています。つまり、どんな仕事にも取り組むことができるように、つぶしがある程度効く人材であることが重要となります。
ですので、専門外の知識でも積極的に吸収し、学び続ける社員は好印象を持たれることになります。
面接の際に入社後の生き方などを聞かれた場合は向上心や成長意欲の高さをアピールしましょう。また、「考え方×熱意×能力」をバランスよく保有するかどうかを確認するために採用担当者は志願者の学生自体について、これらの3点を確認すべく様々な質問を行います。
仕事に対する考え方や姿勢を表現するには、応募先企業の業界や会社の理解、職種の理解が不可欠です、また、志望動機を伝える際に自身における仕事の位置づけ(=考え方)が、単なる生活手段だったり、ライフワークバランスを重視するなど、仕事以外にプライオリティがあるということを伝えるのではなく、「自身の成長や、社会への貢献、自身が強く共感する仕事への参画」という前向きなものであることを表現したいところです。
例えば、仕事が多少思い通りにいかなくても、物事を前向きにとらえなおして成果が出るように努力するという姿勢や、前向きな考え方ができるという傾向を表現することも「仕事でプラスになる向き合い方、考え方」が出来る人材として評価されます。
研究や大学での学習だけでは、エピソードが足らない場合は、サークルや趣味の面でも自身の物事への取り組み方や考え方を表現すると良いでしょう。
<仕事で評価される考え方≒仕事で成功を生み出す考え方の例>
・チャレンジ精神
・向上心
・新しいことを吸収する姿勢
・思い通りにいかないときも(何事も勉強と考え)前向きに物事をとらえる姿勢
・(会社や社会への)貢献意欲
・成長意欲≒多少のことでへこたれない
<仕事に対する姿勢が未成熟として敬遠される考え方>
・寄らば大樹の陰の安定志向
・自分と自分の生活が一番大切
・自分中心、自分が好きなことだけをやりたい
熱意だけでもNG
自己アピールする上で「向上心があります」、「考え方の軸を持っています」だけでは採用担当者に伝わりません。仕事人としての意識・軸を伝える場合は具体例を交えるようにしましょう。大学受験の際にどのように勉強したか、アカデミアでの研究をどのように取り組んだかなど、これまでの創意工夫を伝えれば自分の意識をアピールできるようになります。
入社後の意識を伝える際は、これまで経験が無いためイメージが掴めないかもしれません。しかし、できるだけ会社が求める人材を分析し、それに合った意識を伝えると好印象を持たれます。海外展開に積極的な企業の場合は、面接時に英語を苦手としていても入社後に英語力を身に付ける旨を伝えると良いかもしれません。
また、事業分野を拡張している企業であれば、様々なことにチャレンジをして幅広く経験をしたいことをアピールしましょう。
理系就活の入社後の仕事人意識
入社時の能力より伸びしろ
理系社員はアカデミアでの経験が重要ですが、4~6年間の経験よりも10年、20年の経験が仕事人の能力を高めます。
学歴や経験値が高いほど自信を持ちたくなりますが、入社後は一旦謙虚な姿勢を取り戻しましょう。他の同期よりアカデミアでの経験が少なくても入社後に経験を積んで早く昇進する社員は多くいます。第一の仕事人意識として「学ぶ意識」を持つようにしましょう。
システム開発や機械・回路設計、新規化合物の合成など様々な理系職種がありますが、内容はアカデミアとは全く異なります。アカデミアでは性能だけを重視する傾向にありますが、企業における開発はプロセスの合理化やコストも考えなければなりません。新たな学問を学ぶ意識を持つことで積極的に覚えられるようになります。また、学ぶ意識がある社員とそうでない社員の間にはやはり態度の違いが出ます。意識に欠ける社員は上司からの印象が悪く、出世に響くかもしれません。
仕事人意識は軸になる
もちろん仕事人意識は「学ぶ意識」だけではありません。
一人前としての意識やリーダーシップを持つ意識など、何を意識づけるかは人それぞれです。これが正しいという絶対的な仕事人意識は無く、週末の趣味のためや家族のためという意識でも構いません。
重要なのは明確な仕事人意識を自分で設定することです。意識は仕事をする上での軸になります。例えば将来的な独立を考えているのであれば、企業にいる間にできるだけ多くの知見を得ようとする姿勢が身に付きます。目標とするポジションや職種がある場合は、それに向かおうとする意識が推進剤となり、よりうまく仕事をこなせるかもしれません。いずれは自分でシステムを設計したいと考えていれば、何も意識をしていない同期よりは日々の業務で得られる知見が多くなる事でしょう。
長期的な目標が無くても子どものためという意識があれば難しい業務もそつなくこなせるようになります。入社してすぐに意識づける必要はありませんが、様々な経験を通じて仕事人意識を持つようにしましょう。
意識が欠けていると間違った方向に
アカデミアで社会人学生と接した方は分かるかもしれませんが、できる社会人は他の学生よりも勉学に励んでいる傾向にあります。休みたいはずの平日の夜や土日であるにも関わらず研究や能力開発に励むことができるのは、成長意欲を持っているからです。
もちろん全員ではありませんが、何となく卒業を目指す他の学生は意識に欠けており、とりあえず卒業を目指して研究する傾向にあります。アカデミアでは卒業という明確なゴールがあるため意識が無くても問題ないですが、ゴールの無い社会人において意識に欠けていると、右左へとさまようことになります。仕事人意識の無い社員は自分に自信がなく、上の意向にそのまま従う傾向にあるため、チャンスやピンチの時に居るべき場所に飛び込むことができなくなります。
理系就活生の熱意・考え方をどう育てるか
目的を定める
社会人意識を軸として働くと日々の業務もより効率的にこなすことができます。とはいえ、いきなり意識を持てと言われても簡単にできるものではありません。即席で考えただけの意識はダイエットと同じく長続きしないでしょう。
社会人意識を育てるには明確な目標が必要です。素材メーカーに入社した後、新規の素材を設計したいという目標があれば、日々の実験で得られる知見を必ず覚えようという意識が身に付きます。知財管理部に配属され、やがて弁理士として独立するという目標があれば、特許の執筆に励めるようになります。もちろん目標設定自体もすぐにできるわけではないですが、せっかくなので「一流の〇〇になること」を目指してはどうでしょうか。
そもそも志望する企業で熱意を持てるか
社会人意識を育てるのは入社前から始まっています。どんなに熱意のある人間でも環境が合わなければ、目標を設定し意識を持つことはできません。そのため、志望時点で自分が熱意を持てるような会社を選ぶ必要があります。
グローバル化を目指すか、既存事業を続けるかなど、企業の価値観が自分に合っているか比較しましょう。入社前に判断するのは難しいですが、若手にチャンスを与えてくれるかどうかも重要な判断基準となります。しかし、仮に自分に合いそうな企業に入れなかったとしても落ち込むことはありません。仕事仲間との連帯感や、業務を通じて得られる達成感から熱意が生まれ、社会人としての意識が高まることもあります。
また、そもそも最初から熱意を持つということはできるのでしょうか?
自身の価値基準や判断基準、社会に対して有益だと共感するような仕事であれば最初から熱意を持つこともできるかもしれませんが、世の中、そのような仕事ばかりではありません。
しかし、できる仕事人は自分の仕事に誇りと熱意をもって仕事に励んでいます。
やりがいや熱意というものは、実は、仕事への取組みの行動から生まれてくるものでもあります。
やりがいや熱意の源泉として下記などを挙げられます。
・仕事に一所懸命に取り組むことでその難しさや奥深さを感じること
・仲間とともに仕事をする熱気、連帯感
・仲間とともに仕事をして自身の成長を実感すること
・お客様の喜びの声
・仕事を達成した時の達成感
熱意を発揮できる会社の選び方
企業を選ぶ際は年収や業務内容といったハードの面が重視されますが、熱意を発揮できるかどうかは企業方針や人間関係などのソフト面などの環境面と「自身の覚悟」にかかっています。
会社説明会を通じて企業方針を知ることもできますが、説明会は宣伝的な側面が強く、実際とは異なる場合があります。英語力のある社員を集めるために説明会でグローバル化を訴える企業がほとんどですが、多くの場合は駐在員を2、3人程度配置するに過ぎません。やはりソフト面の情報は人に聞くのが一番です。説明会の人事担当者もしくは面接官に聞くのも良いですが、熱意ややりがいというのは与えられるものではなく、仕事に打ち込んで目標を達成することから生まれるという根本理解を持っておくとよいでしょう。
これだけは知っておきたいポイント
1)「考え方×熱意×能力」のアピールは重要
2)社会人意識は人生と仕事の成功を左右する
3)熱意ややりがいは、与えられるものではなく自身で生み出すもの