自分の専門性や知識を活かせるかが理系就職の肝です。諸条件が良くても仕事を通じてやりがいや成長を感じなければ、理系でいる意味は無いといえます。しかしそれでも年収や福利厚生は気になるところです。理系採用企業(技術を活用している企業)は比較的高所得に分類されますが、額面の年収が同じでも福利厚生の違いによって実質年収は大きく変わります。また、キャリアアップにつながる福利厚生もあり、有意義なものであれば活用しておきたいものです。具体的にどのような制度が提供されているか見ていきましょう。

福利厚生の意義

事前に聞くのは控えて

理系就活において人事は就活生の専門性や成長性、モチベーションを判断して入社の可否を判断します。近年ではライフワークバランスという考え方が普及し、会社のためにバリバリ働くということも少なくなりましたが、あまりにも私生活に重点を置く社員は雇いたくありません。仕事へのやる気が問われるため面接の場で福利厚生について聞くのは控えておきましょう。そして理系社員の醍醐味は製品開発と自己の成長です。企業判断において福利厚生はあくまでも参考程度とし、業務内容で企業を選ぶようにしましょう。

給料の補完

福利厚生の目的はさまざまですが、第一の目的は給料の補完です。入社年次の若い社員は比較的給料が低く給料だけで生活するのは難しいため、福利厚生はなくてはならないものとなります。月々数千円で住める会社の寮も福利厚生の一環であり、寮や住宅補助の有無が実質年収を大きく左右するため入社前に調べておきたい項目です。意外にも会社の食堂も福利厚生と言えます。会社の食堂は社員の食事代だけでは採算が取れず、差額分を会社が出していることが多いためです。住宅・昼食手当の有無だけでも月々の実質月給は5~10万円程度変化します。住宅補助以外には通勤交通費や休暇手当があり、金銭面以外では長期休暇制度などがあるようです。

離職率の低減

福利厚生の整備は離職率低減にもつながります。人は一度住み始めると居心地が良くなり移動することが面倒くさくなる「現状維持バイアス」があるため会社の社宅や寮は従業員を固定するのに役立っていると考えられます。

そして社員旅行や会社負担のイベントは社員同士の結束を強め、従業員にとって心理面での補助となるでしょう。理系企業では住宅補助や転勤補助などの金銭面の福利厚生が分厚い傾向にあります。また、持ち株制度や財形貯蓄など、企業が従業員の蓄財を補助するタイプの制度も離職率低減に貢献しています。余談ですが財形貯蓄などの制度は解約が面倒なため、柔軟なキャリアステップを考えている方は登録しないほうが良いかもしれません。

ある化学メーカーでは研究に充てる10%の時間を上司に報告しなくて良いとする制度があります。この制度の下では研究員が空いた時間に好きな研究をすることができるためモチベーションアップにつながっているようです。

こんなにある、珍しい福利厚生

住宅手当・交通費・財形制度が主な福利厚生ですが、世の中には珍しいものも数多く存在します。東京・大阪に拠点を置く企業では、レジャー関連の福利厚生としてたった2000円前後でディズニーランドやUSJに行けるプランを提供しています。いつでも行けるわけではなく年に1回程度ですが、入場料が5000円も安くなるのはかなりお得です。

また、新婚さんにとって嬉しいハネムーン休暇というものもあり、結婚した年に1週間休暇を取得することができます。土日を含めると9連休となるため忙しい社会人でも気軽に海外旅行を楽しむことができます。

休暇に関するものでは他に誕生日休暇やリフレッシュ休暇、男性向けに出産立ち合い休暇などがあるようです。社員同士の結束を深めるものとしては、社内の人材交流を目的とした飲み会費用を会社が負担する制度があります。一方で近年の若者に不人気な社員旅行は徐々に無くなっているようです。コストが低く利益率の高いIT関連企業では、社内のドリンク・軽食が無料のところもあります。

上手く活用すれば実質年収アップに

資産管理に活用できる

理系企業に就職するのであれば、せっかくの手厚い福利厚生を活用しておきたいところです。寮を提供している企業では寮外での居住を選択した場合、住宅補助が出ないところもあります。若手のうちは比較的年収が低いため、蓄財のためにも寮を選択した方が良いでしょう。

また、財形貯蓄もおすすめです。財形制度は定期預金や投資信託などの金融商品に最低3、5年以上積み立てる制度です。一般財形貯蓄・財形住宅貯蓄・財形年金貯蓄の3種類があり、財形住宅貯蓄では住宅の購入・リフォーム資金として運用した資金の550万円までが非課税対象となります。

財形年金貯蓄は60歳以降、年金方式で受け取れるため老後資金の補助となるでしょう。日本では少子高齢化によって公的年金の受取開始年齢が引き上げられるなど、老後の不安は高まるばかりです。近年では社員向けにセミナーを提供する企業もあるため福利厚生を通じて金融リテラシーを認識し、自己資金について考えておきましょう。

趣味・旅行に使える

会社員は忙しくてまとまった時間をとれません。旅行をしたくても土日しかないため近場の日帰りか1泊旅行しかできないと思います。翌日のことを考えると日曜日に夜遅くまで外出するのも憚られます。思い切って旅行したいのであれば会社の休暇制度を有効活用しましょう。

金曜の午後だけ取得する半日休暇はお得感があります。有給休暇の取得は以前よりも容易になり、上司の顔を伺って休暇取得をためらうことも少なくなりました。ライフワークバランスの考え方は普及しつつあります。旅行では出費も抑えたいところです。大企業において福利厚生制度は外注されるのが一般的で、サービス提供会社が様々な福利厚生を提供しています。年に数回配られるパンフレットに目を通すと、全国各地のレジャー施設やホテルバイキングの割引券などが紹介されています。旅行する際は事前にパンフレットを確認し、使えるものが無いか見ておくと良いでしょう。

スキルアップに使える

福利厚生は資産運用・レジャーだけではありません。自己のスキルアップにつながる制度も提供されており、勉強するための時間を確保し費用を抑えることができます。

最も一般的なのは語学力アップのための制度です。TOEIC400点講座、600点講座などスキルに合わせたオンライン講座が提供されています。通常2、3万円の語学講座を月々3000円で受けられる制度のほか、社員の英語力取得を目指す企業では無料の場合もあります。

また、スキルアップのための時間を勤務時間として認定したり、実際に英会話講師を呼んで社員に残業手当を出しながら講座を開く会社もあります。理系企業ではIT・電気・化学を含め様々な国家資格が必要となります。この場合、勉強に必要な参考書の代金を会社が負担するほか特別講座を開き、会社が資格取得を支援するようです。

理系就活で事前に押さえておきたい項目

寮・住宅手当の有無

皆さんが目指す理系企業は年収が高く福利厚生も充実しているため、就活の段階で心配することはありませんが最低限、住宅関連の福利厚生は確認しておきましょう。

一見、新卒の月給が平均より3~4万円高くても住宅手当が無ければ実質マイナスとなってしまいます。特に都心部ではひとり暮らし向けのワンルームでも6万円以上することがあり、住宅手当が家賃の何割程度まで提供されるか確認しておきたいところです。メーカーの地方拠点の場合は寮が一般的ですが、アパートタイプか文字通りの寮であるかによって持ち込める家具類も変わります。出費以外にも自分のライフスタイルに合うかという点で寮について確認しておきましょう。住宅手当については説明会でよく紹介される内容であるため改めて聞く必要はないと思います。

ためになる福利厚生があるか

スキルアップに関する福利厚生も目を通しておきましょう。社会人は時間を取ることが難しく、平日はなかなか勉強時間を確保することができません。また、理系採用では珍しい資格が多く、参考書や試験料が高額です。

時間と資金を確保できる福利厚生は資格取得の助けとなります。企業が会社員向けにどのようなキャリアアッププランを提供しているのか、どのていど負担してくれるのか把握しておきましょう。スキル関連の福利厚生が充実している企業は社員のキャリアアップに積極的な企業と考えられます。企業の福利厚生は住宅や金銭面に重点が置かれていますが、スキル関連の制度も提供する企業は財政面で余力があるとも捉えられます。なお、スキル関連については面接の場で質問しても問題ありません。

面接では控えて

冒頭でも記載しましたが福利厚生はあくまでも副次的なものです。企業を判断する際は自分がその企業で活躍できるか、自分自身の成長が見込めるかを重点に置きましょう。理系採用では本人の専門性とポテンシャルが問われます。

福利厚生を気にしすぎる就活生はやる気に問題があると判断されかねないため、直接的に質問するのは控えた方が良さそうです。

どうしても知りたい場合はその企業で勤めるアカデミアの先輩を頼るか、転職者向けのサイトで情報共有されているためそちらを参照しましょう。

これだけは知っておきたいポイント 

1)福利厚生は欠かせない

2)スキルアップに活用しよう

3)自分のライフスタイルに合うか判断しよう