こんにちは。理系就活情報局です。

今回は、society5.0から考える企業研究その②ということで、Society5.0に求められる人材や理系人材にとってのメリットとともに、「スマート農業」「防災・減災」「eラーニング」分野での企業事例について紹介します。

Society5.0とは? 

Society5.0とは? 

Society5.0とSDGsの関係

Society5.0は日本政府が提唱しましたが、金融、メーカー、商社などの大企業が主体で財界を主導する日本経済団体連合会(経団連)がいま、熱心に取り組んでいます。

2018年11月に発表した提言・報告書「Society5.0-ともに創造する未来」の中で、Society5.0を「デジタル革新と多様な人々の想像・創造力の融合によって、社会の課題を解決し、価値を創造する社会」と再定義し、それを「創造社会」と呼んでいます。

そして2019年12月には「Society5.0 for SDGs」を発表し、国連が17の目標、169のターゲットを定めて2030年までの達成を目指す「SDGs」(持続可能な開発目標)との関連性を強調しています。

SDGsが示す貧困の解消、教育の普及、エネルギー問題などの社会的課題の解決、均衡ある経済成長の実現に、Society5.0による技術導入が大きく寄与するとみています。

日本国内に限っても労働人口の減少、インフラの老朽化、地域格差の是正など課題は数多く、その解決に大きな力を発揮できると、経団連ではみています。

Society5.0で何が変わる?

Society5.0で何が変わる?

人間の活動の制約が取り除かれる

さまざまな情報端末が共有、連携、一元化することで、たとえば1台のパソコン、1個のスマホで、掃除、洗濯、ゴミ出しなど、家庭の日常生活に必要な全てのサービスが利用できるようになります。家事の負担という人間の活動の制約が取り除かれます。

ITの活用、ドローンによる配達によって、離島や過疎地に住んでいても、地理的制約や地域格差が取り除かれます。

AIの発達で、プログラミングしなくても人間の言葉でコンピュータが忠実に、正確に動くようになれば、技能を習得しなくても、誰でもコンピュータを取り扱えるようになります。

ロボット、自動運転トラックの助けを借りれば、高齢者やハンデキャップがあるなど力仕事ができない人が、作業員を呼ばなくても一人で引っ越しを済ませられるようになります。

人間があらゆる肉体労働から解放される日も、来るかもしれません。

仕事や行為に人が介在しない

自動車の運転は、最初に行き先を指示するだけの「自動運転」によって人は介在しなくなります。工場では、ビッグデータを分析して生産計画を最適化するAIや、生産ラインのロボットが人間の代わりを務めれば、操業に人が介在しない「完全無人工場」が実現します。

経済と社会の互いの課題解決のバランス

業績不振に陥った企業が工場の従業員をどんどん解雇するなど、「経済的な観点では正しくても、社会的な観点では正しくない」ことがあります。しかし「完全無人工場」であれば、ロボットを全部スクラップにしても、産業廃棄物として正しく処分すれば、社会から非難を受けることはありません。

「フードロスの問題はわかっているが、売り切れによって迷惑がかかったお客さんがライバル店に流れたら困るから、一定数の売れ残りが出るのはしかたない」というスーパーは、AIを駆使して販売データをきめ細かく分析し販売個数を的確に予測すれば、ムダを防ぎながらフードロスを最小化させることができます。

そのようにテクノロジーの力で「経済」と「社会」の両方の課題解決のバランスがとれるように「最適化」を追求できるのが、Society5.0なのです。

より快適で質の高い生活へ

Society5.0の「テクノロジーを活用した最適化」は、全地球的規模でもその効果を発揮します。資本や資源やサービスや人材の「適正配分」が行えるようになれば、投資も石油も食料も水資源も医療も高学歴の技能者も「浪費する先進国と欠乏に苦しむ途上国」という不均衡にゆがんだ経済構造が改善されます。地球上の人類が等しく、より快適で質の高い生活を享受できるようになっていきます。

そんな世界が実現すれば、人々の生命、生活を脅かす国際紛争も戦争もテロも犯罪も減少し、地球上のどこでも平和で、快適で、質の高い生活ができるようになるでしょう。

Society5.0に関連する技術

Society5.0に関連する技術

ロボット

人間の指示で動作するロボットは以前からありますが、Society5.0で活用が期待されるのは、AIも搭載されていて、情報をもとに自分で考えて最適な判断を下して行動できる「スマートロボット」です。物流や介護などの現場で、人の手を借りずに、人を助けます。

ドローン

回転翼で飛び回る無人航空機のドローンは、空中撮影や農薬散布の現場ではすでに普及しています。過疎地での配達用ドローンも実証実験中です。課題はまだ残っていますが、無人配達がひろまれば、物流現場の人手不足の解決に役立つでしょう。

自動運転

人間が介在せずに自動車が「認知-判断-操作」して目的地まで走れる自動運転技術は、物流の自動化によるドライバー不足の解消、過疎地や高齢者のための交通インフラの整備、交通事故件数の減少など、Society5.0で最も大きな期待を集めるテクノロジーです。

キャッシュレス決済

支払い決済を現金以外の電子的な方法で行えるキャッシュレス決済は、すでに電子マネー、QRコード決済などの方法が普及しています。事業者側でセキュリティの確保、集計、輸送、偽札の使用防止などでコストがかかってしまう「現金」を取り扱う必要がなくなります。

無人店舗

人間が行っていた接客、レジでの支払い決済、商品の管理や補充、万引きや略奪の防止対策などをITシステムで完全自動化した無人店舗は、「Amazon Go」などの試験的な営業が始まっています。24時間営業のコンビニでは人手不足の解消につながるでしょう。

リアルタイム翻訳

外国人が話したり書いたりした外国語をその場で即座に翻訳して伝えるリアルタイム翻訳は、AIの活用によって技術が飛躍的に進歩しています。Society5.0の技術では耳につける小型のウエアラブル機器で行えることを目指しています。観光振興や国際交流に役立つ技術です。

仮想現実(VR)

仮想現実(VR/バーチャル・リアリティ)は、自分が現実空間から離れて、まるで仮想空間の中にいるかのように感じられる技術です。ゲームなどエンタメの世界だけでなく、不動産物件のバーチャル内見、工事の事故防止、テレワークなどビジネス利用もひろまっています。

世界のSociety5.0戦略

世界のSociety5.0戦略

Society5.0は海外では、社会の変革の前にまず産業、特に製造業の変革を目指す手法として登場しました。ITやIoTを活用して、製造業の生産プロセスをいかに革新し、生産性を向上させるかという点に重きが置かれ、その先駆けがドイツの「インダストリー4.0」でした。その日本版にあたるのが2017年の経済産業省の「コネクテッドインダストリーズ」です。

ドイツ発の「インダストリー4.0」を欧州連合全域に拡大させたのが欧州委員会の「インダストリー5.0」で、アメリカではゼネラル・エレクトリック(GE)が「インダストリアルインターネット」を提唱。中国も「中国製造2025」でそれらの後を追っています。

2016年に日本政府が提唱したsociety5.0は、製造業にとどまらず対象を農業、行政や街づくりや防災、医療や介護、教育、消費生活などまで含めた社会全体の課題解決までひろげたという意味で、オリジナリティがあります。

Society5.0企業事例「スマート農業」「防災・減災」「eラーニング」

Society5.0企業事例「スマート農業」「防災・減災」「eラーニング」

今回は、Society5.0に取り組む企業事例として、「スマート農業」「防災・減災」「eラーニング」分野での企業事例を紹介しますので、今後の企業研究の参考にしていただければと思います。

スマート農業

・オプティム

「スマートアグリフードプロジェクト」は、AI、IoT、ロボティクスのような最先端のテクノロジーを活用したピンポイント農薬散布・施肥などを行い、農薬の使用量を極力抑えて、残留農薬不検出の安心、安全な農作物の栽培を支援しています。

・クボタ

労働力の減少や高齢化のような課題を克服して、活力ある農業を支援する自動運転・無人化農機の開発を進めています。「アグリロボコンバイン」は、トラクタ・田植機・コンバインの3機種でGPS搭載農機を製品化しています。

・スカイマティクス

「葉色解析サービスいろは」は、衛星画像、ドローン画像などの最先端の画像解析技術、地理情報技術を活用して、農業者が農地まで行かなくても、好きな時間に農地の「見回り」ができるというスマート農業ソリューションです。

防災・減災

・綜合警備保障

「河川・ため池監視ソリューション」は、中小河川や農業用ため池のはんらん被害を防ぐために水位計等の観測機器を設置。あふれる前の段階で水位を把握して迅速な水防活動を実施します。観測機器の維持管理、水位情報の伝達、防災関係者の安否確認、現場作業まで一括して提供しています。

・損保ジャパン日本興亜

アメリカの防災スタートアップ企業One Concern、ウェザーニューズと防災・減災システムの共同開発に関する業務提携を締結。熊本市で日本初のAIを活用した防災・減災システムの実証実験を行いました。ウェザーニューズのリアルタイムの気象データ、国土交通省が公開する河川の水位データ、自治体、損保ジャパンが持つデータをもとに最先端の災害科学、AI、機械学習技術を駆使して洪水の精緻な被害予測を行い、地域防災力を向上させます。

eラーニング

・キカガク

人工知能、機械学習など先端技術に関する学生・社会人向けの教育事業を展開。AI人材育成プラットフォーム「キカガクfor Business」が第18回eラーニングアワードで「AI人材育成特別部門賞」を受賞しています。

・ネットラーニング

「ネットラーニング」は累計学習者数が8000万人を超える業界最大手のeラーニングサービスです。マイクロソフトOffice、ビジネススキル、情報処理・ビジネスの資格取得、マネジメントスキル、英語、中国語、AIなどDX人材の養成など、メニューが豊富です。

・デジタル・ナレッジ

学校や企業向けに、オーダーメードのeラーニングシステムの構築から教材制作、その運用までをトータルにサポートしている企業です。AI(人工知能)の活用により、受講者ごとのきめ細かい個別対応も可能になる「教育×AI」モジュールを提供しています。

Society5.0に求められる人材と技術教育

Society5.0に求められる人材と技術教育

Society5.0の時代で必要とされる人材とは、どんな人材なのでしょうか?

やはり、あなたのような理系の専門知識を持った人材が求められるでしょう。エレクトロニクスの基礎知識、AIやビッグデータの処理に結びつくようなプログラミングの知識と能力があれば、引く手あまたになることでしょう。

しかし、大事なことは、社会が、経済が、大きく変化する時代に入っていくということです。

ただ「プログラミングができます」というだけの人材では、単純な作業はあっと言う間にAI(人工知能)に置き換えられてしまうかもしれません。そうなれば人材としての市場価値は大きく低下してしまいます。

「プログラムが書ける」だけでなく、「プログラミング的な思考ができる」ことが必要です。それは突き詰めて言えば「論理的な思考ができるか?」となります。

それに加えて、たとえば無から有を生じさせることができるような創造性、課題を発見したらそれをなんとか解決まで導けるような力、必要なことを言語化して的確に人に伝えられるプレゼンテーション能力、集団を率いてプロジェクトをうまく運営できる力を有する人材が、生き残るには有利になるでしょう。

なお、光あるところ、影もあります。Society5.0には、セキュリティの問題、個人情報流出の恐れなど、人間を不幸にしかねないような要素もひそんでいます。「ユートピア(理想郷)」とは正反対に、人間がAIやロボットに支配される「ディストピア」になるのではないかと警鐘を鳴らしている人もいます。

たずさわる者はそれも理解した上で、根底で「Society5.0でどんな社会を目指すのか?」というビジョンを明確に持っていることが必要でしょう。それはつまり「あなたは人間が主役の社会の設計図を描けるか?」ということです。

そんな人材であれば、たとえ学生時代の専攻がコンピュータとは離れていたとしても、常に新しい知識を吸収しながらSociety5.0の時代に高い市場価値を保ち続けることができるはずです。それこそ、革新が進む「創造社会」での真の担い手と言えます。

研究者、技術者にとってのメリット(まとめ)

研究者、技術者にとってのメリット(まとめ)

好環境、好待遇

未来社会のコンセプトとして2016年にSociety5.0を定義した内閣府の「第5期科学技術基本計画」は、Society5.0の市場規模を760兆円と計算し、政府による研究開発投資額を2020年までの5年間で26兆円と見込みました。国による投資だけでなく、民間の投資額もかなりの規模におよぶことが想像できます。

現状の市場がそれだけの好環境であれば、今後も大企業だけでなくスタートアップ企業の新規参入、既存企業の関連新規分野への進出、異業種からの参入も相次ぐことが予想されます。そうなれば人材の奪いあいで待遇も良くなっていくのがふつうです。

社会貢献

経団連はSociety5.0と「SDGs(持続可能な開発目標)」との関連性の高さを強調しています。Society5.0は、Society4.0(情報社会)で浮かび上がってきた経済、社会でのさまざまな課題を解決する「創造社会」ですから、課題を解決すること、すなわち社会への貢献を意味します。あなたはSociety5.0関連のプロジェクトで働いて、問題の解決に一役買うことで、社会貢献の手ごたえを感じることができるでしょう。

「問題の発見」と「問題の解決」は、決して個別に存在するものではありません。

問題の解決で成果をあげた人材は、その能力、経験、センスを活かして、問題の発見でも成果をあげられるはずです。

自分の市場価値を高める

以上のことから、Society5.0に関わりがある企業の関連するプロジェクトに加わり、努力し、チャレンジし、結果を出し、実績を築いた技術者は、転職市場でも有利な条件で迎えられる可能性が高いと言えます。それはつまり、自分の市場価値が高くなるということです。

Society5.0の時代でますます理系人材は必要とされることが予想されます。

文部科学省が2018年にまとめた「Society5.0に向けた人材育成~社会が変わる、学びが変わる~」の中で、「Society5.0において求められる力」として次の3つが必要になると挙げられています。

1)文章や情報を正確に読み解き、対話する力

2)科学的に思考・吟味し活用する力

3)価値を見つけ生み出す感性と力、好奇心・探求力

企業研究・業界研究に取り組む上で、「これから社会の流れや需給バランスを知ること」はとても重要です。

Society5.0に関連する企業は他にもたくさんあるので、今後の企業研究にも活かしてください。