理系学生と文系学生の就活の最大の違いは「専門性」です。文系学生が専攻分野に進むケースが比較的限られているのに対し、情報系や機械系・電気系を始めとした理系学生は、専攻・専門と仕事が直接結びつきやすい傾向があります。
一方、さまざまな理由から専攻・専門外の分野に就職を希望する学生も多くいます。その場合は、授業や研究に拘束される時間が相対的に少なく、就活に力を注げる文系学生と一緒に就活を行うこととなるでしょう。
そのため、「就活に充てられる時間が少ない」「サークル活動やボランティア活動をやる暇がない」など、理系学生ならではの悩みを抱える人は少なくありません。
本記事では専攻外の企業・業界で就活を行う理系学生に向け、理系の強みを活かした就活戦略を説明します。
理系学生の専攻と就職
理系学生は一般に専攻を活かした就職先に進むイメージがあります。実際はどのような就職先に進んでいるのでしょうか? 理系学生の専攻と就職先の関連を見ておきましょう。
専攻と就職が一致しやすいのは?
従来から、理系学生の中でも機械・電気系の学生は、専攻を活かして、メーカーの技術者や生産部門に進むことが一般的でした。その傾向は今日もあまり変わっていません。
以下に紹介するのは株式会社ディスコが2021年3月卒業予定の大学4年生と修士課程2年生を対象に行った調査です。
出典:2021卒 理系学生の就職活動(専攻分野別) 株式会社ディスコ キャリタスリサーチ
理系全体で見ると、専攻を活かした理系就職が6割を占めていますが、情報系はその割合がさらに高く、83.8%に上ります。現状の日本でIT分野での人材ニーズが高いため、情報工学を学んだ学生が求められていることがうかがえます。
また、機械・電気系でも専攻を活かした理系就職は7割を超えており、機電系の知識と技術力を持った専攻学生は、高いニーズを持った存在だといえます。
専攻外の就職も多いのは?
上記のグラフでは、化学・農学・薬学などの専攻学生は、約半数が直接専攻とは関係ない就職先を選んでいます。また、7人に1人は「文系就職」とも呼ばれる営業や総合職に進んでいることがわかります。
専攻とは異なる業界に就職する学生は、化学・農学・薬学などを中心に決して少なくない現状を見て取れます。
専攻によっては周囲と異なる業界・職種を志望することになり、孤独感を味わったり、情報が入りづらいと感じたりする場合もあるかもしれません。しかし、理系全体でも約3割の学生が専攻以外の就職先を選んでいることを忘れないでください。
技術者・生産部門以外の理系の進路
研究職や技術職、なかでも生産関係の技術職は、学部生はもちろん修士にとっても理系就職の王道です。では、研究職・技術職以外の就職先にはどのようなものがあるでしょうか?ここでは技術職や生産部門以外の就職先の主なものをまとめました。
セールスエンジニア/サービスエンジニア
セールスエンジニアとは「技術営業」と呼ばれることもある、技術的専門家の立場から営業を行う業務です。
製造業を始めとした法人営業では、自社の製品やサービスに対する専門的知識が求められます。取引先の購買担当者もまた、その製品を使う専門家であるため、理系出身者であることが多くなります。そのため交渉の場で要求される知識レベルは高く、理系学生のニーズが高い職種です。
MR(Medical Representative)
MR(Medical Representative=医薬情報担当者)は製薬会社に所属し、医薬品などの営業普及活動を行います。入社後、MR資格試験に合格する必要があります。
MRは薬学部や理系出身でなくても就けますが、専門家である医療従事者に自社製品を紹介し強みを伝えるためには、高度な薬学や化学の知識が不可欠のため、薬学・化学専攻者のニーズが高くなっています。
営業
営業職というと「文系の就職先」のイメージが強いですが、理系出身者も多くいます。現代の営業職に求められるコミュニケーション力は、押しの強さでも巧みな話術でもありません。見込み客の抱える課題を探り当て、課題を解決する製品やサービスを提案し、交渉するには高い論理的能力です。企業の側も、研究を通じて培われた理系出身者の論理的思考や課題解決能力を求めています。
コンサルタント
コンサルティング会社は専門領域によって、総合系、戦略系、シンクタンク系、財務系、IT系、人事系などに分かれますが、いずれも理系出身者の割合が増えており、ニーズも高くなっています。
その背景には、ITやシステムとの関連が深いことや、コンサルタントにとって基本ともいえる「仮説検証」の能力を理系出身者が研究のプロセスで身につけていることがあります。
金融
金融業界でも理系出身者の活躍の場が広がっています。数理統計学などの知識が求められるアクチュアリーやファンドマネージャー、アナリストなどの金融専門職を始め、今日の金融業界は幅広い場面で理系のニーズが増えています。
理系学生が専攻外の企業・職種に就職するには?
自分の専攻外の業界に属する企業や職種に就職する場合に押さえておきたいのは、以下3点のポイントです。
- 1、理系学生の強みを示す
- 2、なぜ専攻外を志望したかを明確にする
- 3、専門・研究活動をわかりやすく説明する
1. 理系学生の強みを示す
理系学生が、金融や営業、コンサルティングなどの文系就職を希望する場合、文系学部生と差異化することが重要です。
「理系」の強みを最大限利用できるのは、研究活動のアピールです。企業研究を通して、その会社が何をし、これから何をしようとしているのか理解しましょう。そこから、自分の研究との接点を探ります。
基礎系や生命系などビジネスに直結しない専攻であっても、専攻を応用し、展開することで企業との接点は広がります。自分の研究そのものではなく、アプローチや考え方の面から考えましょう。
また、ESや面接でかならず聞かれる「何ができるか?」という質問にも、企業の意図や求めるものを理解した上で、研究を通してやってきたことや身につけたことを伝えると良い結果につながります。
「ボランティア」や「アルバイト」「サークル活動」などをアピールする場合でも、研究を通じて身につけた「論理的思考力」や「仮説検証能力」など、理系らしさが伝わるような切り口を大切にしましょう。
2.なぜ専攻外を志望したかを明確にする
専攻と仕事内容が結びつかない場合は、なぜその業界や職種を希望したかを聞かれる場合があります。特に大学院まで進み専門研究を進めていた学生が、まったく異なる分野を志望した場合、「なぜ自社を志望したのか?」「研究に行き詰まったのか?」などの疑問を抱かれる可能性が少なくありません。
これまでの専攻の中で学んだ知識やスキルを、専攻外の企業や職種でどのように活かせると考えたかを軸に説明しましょう。
3.専門・研究活動をわかりやすく説明する
研究活動に熱心に取り組んできた学生ほど、専門や研究の内容を聞かれたら、ここぞとばかりに熱弁をふるってしまう傾向があります。しかし、企業の採用担当者の多くは、科学技術の分野にはそれほど詳しくありません。その分野に詳しくない人でも「何のために」「どのようにして」研究してきたか、その結果、「どのような成果が上がったか」をわかりやすく説明しましょう。
文系の友人や、年下の兄弟に説明し、「わかりやすいか?」「長すぎないか?」「研究の価値が伝わったか?」などのフィードバックをもらうのも良い方法です。
企業は理系就活生に何を期待するか?
これまで文系出身者が中心だった企業の総合職でも、理系学生のニーズは高くなっています。企業は理系出身者に何を求めているのか、理解しておきましょう。
企業が求める理系学生の基本的能力
企業が知りたいのは、理系学生が研究を通じて以下の能力を身につけているかどうかです。
- ・論理的思考力
- ・仮説検証能力
- ・情報分析力
- ・調査力
実のところ、企業から見て評価できる専門性や、研究活動実績を備えている理系学生は多くありません。しかし、専攻が企業の事業と一致しなくても、上記の基本的な能力を備えていれば、自社の業務でも対応できると考えています。
自己分析を行う場合には、過去の研究を振り返り、具体的に何をやってきたか、上記4点に焦点を当てて深掘りしてください。
自社の生産性に寄与するか?
ES(エントリーシート)や面接を通して企業が判断するのは、学業成績や研究の成果よりも、自社の生産性に寄与するかどうかです。
即戦力が期待される中途入社であれば、具体的な業務実績が求められますが、新卒の学生にはそのようなものはありません。新卒の学生、特に理系学生の評価の対象となるのは、これまで行ってきた研究からうかがえる問題意識や問題設定能力、仮説検証の組み立て方、論理的思考力などが評価の対象となります。表に現れる結果よりも、「やってきたこと」を通して現れる能力や資質が評価されると考えてください。
専攻外の企業でも、学部や修士で培われた理系ならではの能力を通して、志望企業の生産性にどのように寄与できるかをアピールしましょう。
理系で学んだことを武器に就活を進めよう
理系学生は文系学生に比べて忙しく、研究以外のサークルやボランティア、アルバイトに割ける時間は限られています。だからこそ、学生時代に最も力を注いだ研究が武器です。
近年では、技術職や生産部門以外の業界でも理系学生のニーズは高くなっています。その背景には、理系学生が研究を通して培った論理的思考力や仮説検証能力が求められているからです。
かならずしも専攻と一致する業界や職種でなくても、理系であることは強力なアピール材料になります。企業研究を通して企業のニーズと、自身が行ってきた研究の接点を見つけ、企業の生産性に寄与する人材であることを伝えましょう。