こんにちは。理系就活情報局です。

就職活動に取り組んでいる理系就活生の中には、どんな業界、企業に就職すればいいか、あれこれ考えている人も少なくないでしょう。

そんな人に向けて「将来、世界でも日本でも大きな投資が見込まれる成長分野を選ぼう」と、アドバイスしたいと思います。

社会からの期待が大きく、大きなお金が動くと見込まれる分野の業界、企業に就職してキャリアを積んでいけば、研究開発職、技術職として働く人材の重要性、つまり、自分の市場価値が上がります。

投資資金が潤沢で、それに伴い高い報酬を得られる望みがあるだけでなく、未来を左右する社会的意義の大きい仕事に携わって成果を出したいという「やりがい」も、大きくなるでしょう。

そんな分野の1つが「カーボンニュートラル」です。

カーボンニュートラルとは

カーボンニュートラルとは

カーボンニュートラルは簡単に言えば「温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させること」です。二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの「排出量」を削減しつつ、その「吸収量」を増加させて、両者の合計を実質的にゼロまたはそれ以下にする。そうすれば「地球温暖化(気候変動)」のような温室効果ガスの増加で起きる悪影響がこれ以上拡大することはなくなる、と見込まれています。

カーボンニュートラルの世界戦略、国家戦略

カーボンニュートラルの世界戦略、国家戦略

パリ協定の「2℃目標」

近年、地球温暖化(気候変動)により全地球的規模でさまざまな気象災害が発生しているとみられています。その原因として挙げられるのが温室効果ガスの増加です。

地球規模の課題である気候変動問題を解決するために、2015年の「パリ協定」では、次のような世界共通の長期目標についての合意がなされました。

「世界的な平均気温上昇を工業化以前(1850~1900年)に比べて2℃より十分低く保つとともに、1.5℃に抑える努力を追求すること(2℃目標)」

「今世紀後半に温室効果ガスの人為的な発生源による排出量と吸収源による除去量との間の均衡を達成すること(カーボンニュートラル)」

120以上の国と地域が「2050年カーボンニュートラル」目標化

パリ協定の目標を実現するために、世界120以上の国と地域が「2050年カーボンニュートラル」を目指しています。

2020年10月 日本政府「2050年カーボンニュートラル宣言」

日本政府も2020年10月に「2050年カーボンニュートラル宣言」を出し、「脱炭素社会」の実現と。2050年までの温室効果ガス排出実質ゼロを全体目標に掲げました。

経済産業省資源エネルギー庁「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」

経済産業省資源エネルギー庁は2021年5月、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を策定しました。その狙いは、国際的に脱炭素化の機運が高まる中で「グリーン」に日本の次の成長の機会を見出そう、というものです。

規制の緩和、強化の両方で政策誘導を図り、イノベーションを促す投資を促進し、産業競争力の強化、新産業への転換、新たな雇用の創出、日本の持続可能な経済成長を目指します。

カーボンニュートラルの関連産業

カーボンニュートラルの関連産業

資源エネルギー庁「グリーン成長戦略・実行計画」の14分野

資源エネルギー庁の「グリーン成長戦略・実行計画」では、3つの関連産業、14の重要分野を定め、2030年、さらに2050年にかけての長期成長戦略を進めています。

各分野ごとに2050年までの「工程表」もつくられています。

・エネルギー関連産業4分野(洋上風力、燃料アンモニア、水素、原子力)

・輸送・製造関連産業7分野(自動車・蓄電池、半導体・情報通信、船舶、物流・人流・土木インフラ、食料・農林水産、航空機、カーボンリサイクル)

・家庭・オフィス関連産業3分野(住宅・建築物産業/次世代型太陽光、資源循環関連、ライフスタイル関連)

図表「14分野」 資源エネルギー庁「カーボンニュートラルに向けた産業政策“グリーン成長戦略”とは?」より

14分野を眺めればわかるように、カーボンニュートラルに関わる分野は広範囲にわたります。発電のようなエネルギー分野だけでなく、材料も電子部品も自動車も船舶も航空機も情報通信も土木・建築も住宅もバイオテクノロジーも含まれます。農林業も無関係ではありません。あなたの専攻分野との接点もあるはずです。

カーボンニュートラルの技術の方向性

カーボンニュートラルの技術の方向性

カーボンニュートラルに関わる産業分野は、次の図のようにお互いに連係しています。

図表「産業イメージ」 資源エネルギー庁「カーボンニュートラルに向けた産業政策“グリーン成長戦略”とは?」より

代表的な技術テーマとして、次の5つを挙げます。

エネルギーの脱炭素化

風力発電(洋上風力)、太陽光発電、水素発電(水素貯蔵)、バイオマス発電(藻類の利用)、原子力発電、アンモニア発電などがあります。

エネルギーの「地産地消」も、長距離輸送で発生するCO2を低減させるという意味では脱炭素化につながります。

炭素の閉じ込め・吸収

石炭、石油、天然ガスのような化石燃料から発生する炭素(C)を大気中から回収して地中に閉じ込める、吸収・固定化する技術はカーボンニュートラルに寄与します。大気中のCO2直接回収(DAC)、地下貯蔵(CCS)などの技術があります。

二酸化炭素を吸収する森林の育成や、農業の低炭素化にからんだ技術開発もこれに関わります。

リサイクル

廃材、廃パルプを燃やさずに再利用、下水の処理のような資源循環のテクノロジーは、脱炭素化につながります。

脱炭素新素材

ストローをプラスチック製から紙製に変えるような素材の脱プラスチック化を図る、プラスチックに代わるバイオ由来の新素材を開発することも、カーボンニュートラルに貢献します。CO2大量排出産業と言われた鉄鋼産業でも「ゼロカーボン・スチール」の研究開発が進んでいます。

エネルギー消費の抑制(省エネ)

装置・機械類のエネルギー消費を抑える省エネ化技術は、最も身近で広範囲のカーボンニュートラルと言えるでしょう。

自動車は電気自動車、水素自動車、バイオ燃料その他の合成燃料の利用で化石燃料の消費が抑えられます。

鉄道は燃料電池車両、船舶はゼロエミッション船、航空機は代替燃料の利用というように、脱炭素のための研究開発テーマがあります。

電気・電子分野では「系統用蓄電池」の普及でピーク時の電力消費が抑えられます。

電力消費を制御するパワー半導体の開発は今まさにホットな分野です。

情報通信では電力消費が大きいデータセンターの省電力化が重要な研究開発テーマになっています。

建築・住宅の省エネ化は、建設各社が開発を競っている分野です。

物流企業では効率的なロジスティックス改革で省エネ化を図っています。

一般家庭周辺でも電化、デジタル化やライフスタイルの転換が提案されています。

3Dなどの臨場感あるテレワークシステムの登場、在宅勤務の普及で通勤電車の消費電力や通勤用マイカーの燃料消費が減ることも、カーボンニュートラルに寄与しています。

民間企業のカーボンニュートラル戦略の代表例

民間企業のカーボンニュートラル戦略の代表例

三井化学カーボンニュートラル研究所

大手化学メーカーの三井化学は持続可能な社会の実現に向けて、最先端の実用化技術の創出を目指してカーボンニュートラルへの取り組みを推進しています。その実現に必要な要素技術の研究を行い、技術の社会実装につなげることが目標です。

2021年11月、福岡市西区の九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I2CNER/アイスナー)内に「三井化学カーボンニュートラル研究センター(MCI-CNRC)」を開設しました。

九州大学のグリーン水素、CO2回収、貯留、変換などに関する世界最先端の知見と、三井化学の低環境負荷技術の社会実装を目指す開発・工業化の知見をベースに、共同研究を行っています。

主な研究領域は「グリーン水素製造・利用」「CO2分離・回収」「CO2変換・固定化」「高度分析・評価」です。

酉島製作所「エコポンプ」

海水淡水化プラント向けで世界トップシェア、バイオマス発電向けで国内トップシェアのポンプメーカー、酉島製作所は、「ポンプで世界を救う」をモットーにカーボンニュートラルを目指した研究開発を進めています。

省エネ化する「エコポンプ」の技術開発の代表例としては、ポンプの電力消費がプラント全体の約半分を占める大型海水淡水化プラントでの省エネ化の取り組みが挙げられます。

バッテリ内蔵のワイヤレスセンサと事務室のPC、現場で人が持つスマホを情報回線で結ぶ、IoTを利用したモニタリングシステム「TR-COM」も、ポンプの効率的な運転に寄与しています。

脱炭素エネルギーのアンモニアを取り扱うポンプの研究開発でも評価が高く、日本初のアンモニア混焼火力発電プラントの実証事業に参画しています。

参考:TECH OFFER「株式会社酉島製作所」

大学・研究機関のカーボンニュートラルへの取り組み例

大学・研究機関のカーボンニュートラルへの取り組み例

九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所

九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I2CNER/アイスナー)は、2010年12月に福岡市西区の九州大学・伊都キャンパス内に開設されました。

カーボンニュートラル・エネルギー社会の実現を目指して環境・エネルギー科学研究を包括的に推進しています。

企業や政府機関・自治体などとの「産学官連携」を進めながら、日本と世界のエネルギー問題の解決に向けて基礎研究にも従事。

イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校との間でパートナー提携を結んでいます。

研究部門は「物質変換科学ユニット」「エネルギー変換科学ユニット」「マルチスケール構造科学ユニット」「国際科学連携ハブ」「国際産学連携ハブ」の6部門を設置。

最近の研究成果には「世界最高レベルの活性を持つ燃料電池用メタルフリー正極触媒の開発」「CO2水素化によるメタノール合成の反応過程を解明」「レアメタルを必要としない有機材料を用いた蓄光デバイスの高性能化」「大気中からのCO2直接回収と地中貯留でネガティブエミッションを達成するコンセプトを構築」などがあります。

自治体のカーボンニュートラルへの取り組み例

自治体のカーボンニュートラルへの取り組み例

環境省「地域脱炭素ロードマップ」

環境省は2050年カーボンニュートラルを実現するために2021年6月、「地域脱炭素ロードマップ~地方からはじまる、次の時代への移行戦略~」を策定しました。

地域を主役に、脱炭素に移行するための行程と具体策が盛り込まれています。

5年間で100か所の脱炭素先行地域を創出し、重点政策を全国的に実施して「脱炭素ドミノ」を伝搬させる戦略です。

福岡県大牟田市の産学官連携

その先行地域の有力候補が福岡県大牟田市です。三井化学と産学連携先の九州大学、さらに九州電力、東芝なども加わえた「産学官連携」で、カーボンニュートラル戦略を進めています。

市内の東芝のグループ会社シグマパワー有明三川発電所は、2017年に石炭火力からパームヤシ殻を主燃料とするバイオマス発電に転換し、2020年に世界初の大規模バイオマス発電によるCCS(CO2の回収・貯留)の実証実験をスタート。

大牟田市は「地球温暖化対策実行計画」を策定し、「カーボンニュートラル・脱炭素経営セミナー」を開催するなどして地元企業にも参画を呼びかけています。

市民に対しては「環境家計簿アプリ『エコふぁみ』」を無料で配布。

全国の学校・団体を対象に「脱炭素チャレンジカップ2022」も催しています。

巨額の技術開発投資が見込まれるカーボンニュートラル

巨額の技術開発投資が見込まれるカーボンニュートラル

カーボンニュートラルの研究開発、実証、導入、拡大への投資を促すために、政府や自治体の予算拡充、税制の優遇、金融機関の融資など、さまざまな支援策が打ち出されています。

NEDO「グリーンイノベーション基金」

NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)は、10年間で2兆円規模の「グリーンイノベーション基金」を創設しました。それを呼び水に15兆円の民間イノベーション投資を引き出すのが狙いです。

カーボンニュートラルに向けた投資促進税制

政府は10年間で1.7兆円の民間投資創出効果を目指す税制優遇策「カーボンニュートラルに向けた投資促進税制」を打ち出しています。

脱炭素化の効果が高い製品をつくる生産設備を導入した企業や、脱炭素化の研究開発を行う企業が対象です。

カーボンプライシング

政府は二酸化炭素(CO2)に「価格」をつけて取引する「カーボンプライシング」のような市場メカニズムを用いた手法の活用も進めていく考えです。

グリーンファイナンス、ESG投資

企業が債券発行などで環境投資のための資金調達を行う「グリーンファイナンス」の振興や、株式市場で環境投資に積極的な企業の株式投資を促す「ESG投資」も、カーボンニュートラルへの投資を促します。

研究者、技術者にとってのメリット

研究者、技術者にとってのメリット

IEA(国際エネルギー機関)の「Net Zero by 2050」によると、クリーンエネルギー分野の世界全体の投資額は、現状の約1.2兆ドルから2030年の約4.3兆ドルへ、約3.6倍になると見込まれています。

資源エネルギー庁によればその国内分について、約4.8兆円から約16.6兆円へ約3.5倍となる計算です(「クリーンエネルギー戦略の策定に向けた検討」2022年4月)。

内訳は、電源脱炭素化/燃料転換に約5兆円、製造工程の脱炭素化等に約2兆円、エンドユースに約4兆円、インフラ整備に約4兆円、研究開発等に約2兆円となっています。

技術分野別の2030年の投資見込み額は、「水素・アンモニア」約0.3兆円、「住宅省エネ化」0.9兆円、「建築物省エネ化」0.8兆円、次世代自動車の電動車1.8兆円+研究開発1兆円+インフラ0.2兆円、蓄電池0.6兆円、半導体3兆円、データセンター0.5兆円です。

好環境、好待遇

2030年というと、今の理系就活生が30歳前後の年齢になり、入社した企業の現場の最前線でバリバリ働いている頃でしょう。その時、国内だけで16.6兆円という巨額な投資が行われているカーボンニュートラル関連分野の研究者、技術者は、資金的にこれ以上ない好環境のもとで働いていることになります。

企業にとっても最大級の注力分野であり、好待遇を用意するでしょう。

報酬の話を抜きにしても、研究者、技術者として成長できるという意味で、これ以上の好環境はありません。

社会貢献

さらに言えば、カーボンニュートラルは、国連の「SDGs(持続可能な開発目標)」の17の目標のうち「エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」「産業と技術革新の基盤をつくろう」「つくる責任、つかう責任」「気候変動に具体的な対策を」に直結します。カーボンニュートラル関連の仕事で社会に貢献できるため、働くモチベーションを高く保てるでしょう。

自分の市場価値を高める

以上のことから、自分自身の研究者、技術者としての市場価値を高めるフィールドとして、カーボンニュートラル関連分野は非常に適しています。

これだけは知っておきたいポイント(まとめ)

この記事ではカーボンニュートラルについて解説しました。

関連技術は非常にすそ野が広く、程度の差はあっても、あなたの専攻分野との接点は必ず見つかるはずです。

カーボンニュートラルを前面に打ち出している企業だけでなく、やっていることが一見関係がなさそうに見える企業でも、深く探っていけば決して無関係ではないということもありえます。

「関係ない」などと先入観を持たずに、業界、企業をくわしく研究してみることをおすすめします。

将来、世界でも日本でも大きな投資が見込まれる成長分野を選ぶことで、結果として人材の重要性、すなわち自分の市場価値が上がります。

重要なポイントをおさらいします

・カーボンニュートラルとは

①温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させること

・カーボンニュートラルの世界戦略、国家戦略

①パリ協定の2℃目標 ②2050年カーボンニュートラル

・カーボンニュートラルの関連産業

①「グリーン成長戦略・実行計画」

②3つの関連産業、14の分野

・カーボンニュートラルの技術の方向性

①エネルギーの脱炭素化

②炭素の閉じ込め・吸収

③リサイクル

④脱炭素新素材

⑤エネルギー消費の抑制(省エネ)

・民間企業のカーボンニュートラル戦略の代表例

①三井化学 ②酉島製作所

・大学・研究機関のカーボンニュートラルへの取り組み例

①九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所

・自治体のカーボンニュートラルへの取り組み例

①環境省「地域脱炭素ロードマップ」

②福岡県大牟田市の産学官連携

・巨額の技術開発投資が見込まれるカーボンニュートラル

①NEDO「グリーンイノベーション基金」

②カーボンニュートラルに向けた投資促進税制

③カーボンプライシング

④グリーンファイナンス

⑤ESG投資

・研究者、技術者にとってのメリット

①好環境 ②好待遇 ③社会貢献 ④自分の市場価値を高める