就活中、特に理系の学生は自分の研究との両立で精神的にも肉体的にも消耗しています。しかし、これに拍車をかけるのが親の言葉かもしれません。
親は自分の子供がうまく就活を乗り越えてくれることを願って発言していますが、良いアドバイスもあれば、時代に合っていないアドバイスも混ざります。

自分がやりたい、入社したいという希望にお構いなしに「○○を受けたらどうか」などと、言われて迷ってしまったり、うんざりする就活生もいるようです。
親のアドバイスを主体的に取捨選択できるように親世代の就活状況や仕事観を知っておき、自身の就活の軸を持ったうえで、親のアドバイスを自身の就活に役立てましょう。

理系就活でプレッシャーとなってしまう親たち

親の言葉にご用心

「親がとにかく有名な大企業ばかりを勧めてきて困った」という話は、誰でも一度は聞いたことがあるのではないでしょうか?中には頑張ってベンチャー企業に内定を取ったのに「そんな会社聞いたことないからやめた方がいい」と説得されて泣く泣く諦める人もいるようです。
自分の就職なのだから、自分の行きたいところへ行けばいいじゃないかという人もいるでしょう。しかし、せっかくなら親にも自分の就職を喜んでもらいたいという気持ちもありますよね。

その結果、親の意見に従うか、自分の希望を押し通すかで悩みが生じますが、親の意見に従って就職したものの後悔ばかりで結局は退職してしまったという事態を招いている場合もあります。
親としては社会のことを学生の皆さんより走っている部分もあるので、リスクの指摘が役に立つこともあるかもしれません。ですので、自分だけの思い込みではなく親の意見もある程度聞きつつ、自分のキャリアの最終責任者は自分だという意思を持ち、主体的に選択していきましょう。

親の意見が就活に影響している人は35%

学生の就職活動や仕事選びに関して、親の意見はどの程度影響を与えているのでしょうか。株式会社テックオーシャンが2020年8月に21卒の理工系学生に対して行ったアンケート(回答者数259名)によると、約35%の学生が「何らかの影響がある」と答えています。そのうちの約1割は「影響があった」「かなり影響があった」と答えていますので珍しい事でないことは間違いありません。


どのような影響があったのかについての細かい情報はありませんが、親の意見やアドバイスがある際には、親に自分の価値観を認めてもらい、自分も親の意見をある程度参考にするということができるといいですよね。

引用元:株式会社テックオーシャンのアンケート調査

親の意見がアドバイスにならない場面

親も子の事を思えばこそ「アドバイス」をしているのですが、残念ながら親が就活をした時代と今どきの就活には大きな違いがあることを、親自身は気が付いていないことがあるようです。
今の就活生の親が就職活動をしていた時代は、終身雇用が前提にあり、ITも発達しておらずスマートフォンもありませんでした。重厚長大企業がまだ羽振りをきかせ、メーカーがどんどん伸びていた時代となります。公務員も安泰という価値観があります。

時代が変わったことを頭では理解していても、その時の経験は変わりません。子のために何かしてやりたいという気持ちからのアドバイスなのですが、時代に即していない発言や価値観が出てくることがあるかもしれません。
そんな時には多少嫌気がさすこともあるかもしれませんが、うまいこと親の意見に付き合っていきましょう。

親世代の就職活動とは

30年前の就活状況

この時代の就活は「超売り手市場」と呼ばれ、大学生は1人でいくつもの企業の内定を取っているのは珍しいことではありませんでした。いわゆる大手企業や有名企業と呼ばれる会社から山のように会社案内が送られてきて、応募すればほとんど落ちることはないとも言われていたのです。
なぜそのようなことが可能だったのかといえば、景気が良かったことはもちろんですが、もうひとつ忘れてはならない要因があります。それが大学への進学率です。


下のグラフは昭和60年から令和2年までの18歳人口と大学の進学率を表したものです。大学の学部への進学者は濃い青での折れ線グラフになりますが、1988年(昭和63年)には25.1%(4人に1人)でした。現在は54.4%ですので、大学生の数は半分程度だったともいえます。
もともと企業の中で「大卒」に任せる仕事と「短大卒」や「高専卒」、「高卒」に任せる仕事ははっきりと区別されています。18歳人口が減っても多くの業務がパソコンなどの普及で効率化されていますから、現在は少ない仕事をより多くの学生が奪い合うことになっているのです。

※文部科学省『令和2年度学校基本調査』より引用

理系学生の就職活動は推薦が基本でした。より優秀な学生を取りたい企業側は大学とのパイプを大切にしており、研究室に来る募集から選んで応募すればよく、文系以上に就職に苦労をしなかったのです。大学を卒業すれば就職先がセットで付いてくる、という感覚だったのかもしれません。

就職=就社という時代

この時代は「一度会社に就職したら定年まで勤めあげるもの」という考えが一般的でした。大手企業では独身寮や社宅、保養所などの施設以外にも手厚い福利厚生によって社員の生活を丸抱えしていたと言っても過言ではありません。社員は中枢部分を担う人材から事務職まで全て正社員で採用し、社内結婚する人も多かったのです。


異動や転勤などで不満があっても「転職する」という発想に繋がらなかったのも、転職する人が珍しく、印象が良くなかったためだと考えられます。また、年功序列が今以上に機能していたこともあり、年齢が上がれば役職も給与も上がったので不満が出にくかったとも言えるかもしれません。

理系学生の人気企業ランキング

以下の表は、約30年前と21卒学生の人気企業のランキングを比べたものです。
有名企業に就職すれば一生安泰と言われていたこともあり、当時の人気企業はいわゆる大企業が並んでいます。自分の専攻に関連する企業ではありますが、「大企業」「有名企業」という部分でも選ばれていたものと推測できます。


現在でも大企業の人気は根強いものがありますが、機械・電気・情報系を見るとかなり並びが変わっていることが分かります。1989年は東芝から世界に先駆けてノートパソコンが発売された年にあたり、そこからのIT・通信分野の発展は30年後のランキングを大きく変えたと言っていいでしょう。

誰のための理系就活かを伝える努力を

就職活動は大きく変化している

以上の記事から、親世代の就活環境や就職に関する考え方は現在と異なっていることを理解できたかと思います。親としても悪気があるわけではありませんから、昔と今とで状況が異なることを理解すればアドバイス内容も変わることでしょう。


そのためにも、現在の就職活動が当時とどのように変わったのかを、一度きちんと説明することが大切だと考えます。理系独特の学校推薦についても現在では利用したくないと考える学生は多く、インターネットからのエントリーから始まる自由応募が主流であることなど、親世代は全く知らない可能性も高いと考えるのが自然です。これらのデータを親に紹介するというのもよいかもしれません。

引用元:株式会社テックオーシャンのアンケート調査

自分がやりたい事は何かを再確認する

親は子供が通っている大学や学部の事は知っていても、どんな研究をしているのかまで詳しく理解している訳ではないのではないでしょうか。4年もしくはそれ以上の時間を費やして「学んだ知識を活かせる仕事に就こうとしている」ことにまで考えが及んでいないこともあるでしょう。それが特に新しい技術に関することであればなおさら「そんな企業は聞いたことがない」と一蹴される原因に繋がっている可能性があります。

一方で大学で学んでいることは長い人生の中においてはごくわずかの時間であるということも真理です。大学での学びだけにこだわらずに実際の世の中で何が求められているかを知り、社会につながっていくということも時には必要です。

親は社会人としての人生が長いことから、これらを大局的に見てアドバイスができることもあります。

親の意見の中にも真理はあるので、自身の思い込みではなく、人の意見も聞きつつ取捨選択できるようにしていくとより良い就職ができる可能性も高まります。

就職に安定を求めた時代は終わり、理系学生では特に自分が持つ知識やスキルを武器に社会で活躍する時代になっています。終身雇用の時代は終わりを告げていますので、自分は「就社」ではなく「就職」をして自身の能力を磨き、成長していく必要があるという意識を持つようにしたいものです。
つまり、大手企業でスキルも能力も身につかずに業者への発注スキルのみが成長するという環境であれば、それはリスクになるかもしれません。もちろん、そういう会社ばかりではないですが、このような視点も持ちつつ、自身が成長できて世の中を渡っていくことができる人財になれる会社はどのような会社かという視点も持つとよいでしょう。

就職するのは自分だとはっきりと宣言する

もし、親があれこれと言ってきたとしても、実際に就職するのは学生である自分自身です。

本記事を親に紹介するなどしつつ、時には「自分の人生は自分で決めたい」と親にはっきりと伝えることも重要です。
就活方法の変化、自分が今まで学んで来た事、そしてこれから社会人としてどのように仕事をしていくのかを、きちんと親に話す機会を作ってみるとよいでしょう。またその際は、自分が希望する企業についての説明などもある程度、データなどを基に話しておく方がいいでしょう。一方で、入社してもらいたいと考えているその会社の社員の人の主観的発言はデータではないので説得力に欠けます。
親に自分の入社したい会社を説明する機会は、自分自身としても客観的に整理する良い機会ととらえるとよいでしょう。

親と話し合いが必要な際は、就職するのは自分であり、就活は社会へ出るための第一歩だから自分の事を信じて見守って欲しいと、しっかり伝えるのがベストだと考えます。簡単な資料などを用意するのもいいでしょう。

また、別の記事で紹介していますが重要な判断をする際には「心技体」の3つの観点から物事を整理しましょう。思い込みでよい会社だと思っていても、実は技(悟性)の観点で物事を客観的に見てみると実は不安な面のある会社だということに気づくかもしれません。
自分の思いとの合致の他、客観的な安全性、感性面や体力面でその仕事が自身に合致しているかどうかなど、様々な面から整理してみましょう。

いくつになっても親にとって子供は子供ですが、就活を通して「自分の子供はもう小さな子供ではない」と理解してもらうことが、その後の親子関係にもいい影響を与えるのではないでしょうか。

参考:
【理系学生の生の声!】コロナ下の理系学生就活実態を徹底調査〜21卒259名のアンケート結果公開〜

まとめ

・就活に関しての考え方が親子で大きく違うことを理解する

・自分のやりたい事や企業についてしっかり説明を行う

・就職するのは自分であるという意識をしっかり持つ