健康寿命が長くなったことで定年の延長や再雇用制度の導入が進んでいます。また、従来の年功序列・終身雇用制度が見直されるようになり、働く環境も日々変化しています。これから入社を迎える人々は今まで標準とされてきた生き方が参考とならず、自分で切り開くことになるかもしれません。

そういった環境下で若い人たちが上手く立ちまわるには、変化を受け入れるという柔軟性が必要になります。様々な生き方を想定しながら今後の人生を思い浮かべてみましょう。

専門性に特化した社内での出世

技術を磨く若手~中堅時代

同じ会社に勤め続けるか、転職するかに関係なく、若手・中堅時代は職務を通じて技術を磨くことになります。アカデミアでの経験があるため自信を持っているかもしれませんが、入社後は新たな学問を学ぶ気持ちで業務に励みましょう。

アカデミアの延長線上にあるような業務内容であったとしても、業務計画の立案法や考察法や成果の定義は企業独特のルールが定められている場合がほとんどで、アカデミアと同じということはありません。

研究開発、技術営業、システム設計など理系就職の業種は様々ですが、共通しているのは売るための製品・プロセス・技術を扱うことです。アカデミアでは実用性の低い研究であっても学術的に重要であれば研究対象となりますが、企業では実用性が重視されます。研究開発の場合、コストやスケールアップを考えながら開発を進めますが、こうした姿勢はアカデミアでは経験できません。納期も定められているためスピード感を持って仕事に励みましょう。

マネージメント職

昇進のスピードは本人の適性や状況によって異なりますが、入社して5年もたてば主任格となり、2~3人程度の部下を抱えるようになります。そして40前後になると課長や部長となり、10人以上を管理することでしょう。

新人は個人の能力が評価対象となるのに対しマネージメント職は上手く部下を管理できているかが評価対象となります。自分にとって簡単な業務であっても部下にとっては簡単ではありません。短期間で技術を習得するのは難しいため、長期の視点で部下を育成しましょう。職務でどのような技術・能力が求められ、実際に部下がどの程度能力を有しているのか、改めて考えてみると良いでしょう。

ちなみに大企業ではこうした能力管理がマニュアル化され、フォーマット形式になっている所もあります。上司からの命令と部下の能力で板挟みになりますが、そこを乗り越えてこそ一人前の管理職といえます。

企画発案者として

金融系のシステム管理会社がスマホゲームに参入、接着剤メーカーが医薬品中間体に参入…こうした大規模な企画の発案を一般社員が任されることはなく、執行役や取締役の仕事といえます。

経済の成長期には同じ製品を作り続けても会社は存続できますが、低成長の現在は市場の変化に合わせて会社も変化しなければなりません。変化に対応するには専門分野だけでなく他の分野にも目を向ける必要があります。

新人は技術に没頭しがちですが、取締役は銀行や取引先との関係も考慮しなければならないため、他業種や金融の知識も求められます。業界を俯瞰的に見る視点が重要です。このような能力を短期間で備えることは難しく、長期で少しずつ習得していく必要があります。最も基本的な方法として新聞を購読してみるとよいでしょう。ネットの情報は自分が好む情報だけを集めがちですが、新聞では幅広い情報を自動的に得ることができます。

他分野で活躍する

営業・生産・管理部門など

システムエンジニア⇒ITコンサルタント、研究開発職⇒研究部長のような昇進もある一方で、自分の能力次第では他分野に配置される可能性もあります。近年ではジョブローテーションの導入も進んでおり、会社は社員の能力を長期で判断し、最終的な配置を決めることになります。

一例として技術部門から営業への配置はよくあることです。文系卒として営業に配属された社員は専門知識に乏しいこともあり、技術的内容を補完するために理系社員が配置されます。理系企業の場合、営業といっても新規開拓営業ではなくルート営業がメインですので、飛び込み営業のような業務を任されることは無いでしょう。

それ以外にも、工場の生産職や人事などの管理部門に配属されることもあります。異動しても技術的知識が不要になるのではなく、それまでの知見を活かして会社に貢献することが求められます。

専門分野を離れるメリット

技術一本で昇進した社員は視野が狭まりがちです。普段から情報収集しているといっても自分が担当する業務範囲に近い特許・技術文献・情報を集めているに過ぎず、他分野の情報を積極的に収集している事が少ないためです。

また、理系社員は一般的に取締役になりにくいと言われています。前述の通り取締役は俯瞰的な視点が求められますが、技術のみを担当した社員が金融や経済の知識を習得していないと思われがちです。

一方で、技術部門を一旦離れ、他の職種に配置された社員は幅広い経験ができるというメリットがあります。仮に技術・生産・営業全ての職種を経験していれば会社のほとんどの業務を経験したことになり、俯瞰的な視点を持っていると判断されるでしょう。また、転職市場において理系人材は不足していると言われていますが、ニッチな技術のみを扱っている人材はあまり魅力がありません。幅広い経験を有していれば転職の成功率も高まることになります。

専門職に戻ることも

他の職種に配属されたとしても、元の技術部門に戻る場合があります。

例えば入社後5年間はシステムエンジニア(SE)を担当し、その後ITコンサルタントになってからITアーキテクトになるルートです。SEを通じて技術知識を高めてからITコンサルタントとして顧客対応を学びます。そこでは実際にどのような技術が求められ、実用化されやすいのかといった知見を体得します。その後ITアーキテクトとしてシステム設計に携わる際に、ITコンサルタント時代に習得した顧客受けの良い技術を組み込むことでより良いサービスを生み出せるかもしれません。

また、化学メーカーで研究開発⇒生産職⇒研究開発のルートで昇進した場合、一旦生産職を経験することで、生産現場にとって無理のない合成反応を設計できるようになります。このように技術⇒他部門⇒技術のルートで経験を重ねると、再び技術部門に配属された際により優れた能力を発揮できるかもしれません。ちなみに会社の人事部がここまで考えて配属を決めていない可能性もあります。技術部門に戻りたい場合は自分の希望をアピールすることも重要です。

社内での出世以外の生き方

ライフワークバランスを重点に

ここまで出世のルートを紹介しましたが、仕事だけが正解ではありません。

理系社員は他の社員よりも比較的所得が高いこともあり、出世しなくてもゆとりのある生活を送ることができます。現在はまだ黎明期と言われていますが週休3日制や残業・異動のない正社員雇用の導入が始まっています。

自分の趣味や家族を重点に置きたい、あくまでも会社勤務は給料を得るために手段に過ぎない、と考える方はこのような制度もおすすめです。

ただし若手社員がすぐにこうした制度で採用されるのは難しいかもしれません。短い時間でも会社に貢献できることが求められるため、ある程度の経験が必要になります。ちなみに時短社員は後述する副業や独立のための準備ができるというメリットもあります。

副業解禁による多様化

企業の業績悪化や国内市場の縮小によって終身雇用制度が難しくなっていると言われています。こうした背景から副業を解禁する企業も増えてきており、副業をした人にとってはチャンスといえます。

副業のメリットは何より経験の幅を広げられることです。プログラマーの場合、会社では上司や顧客の要望に沿った業務しか担当できませんが、副業では多様な要望を受けることができます。何より副業が軌道に乗れば独立や企業といった選択肢も考えられるでしょう。かつて取引先との書面・データのやり取りは郵送やメールが主でしたが、近年ではスプレッドシートなどGoogleアプリを通じて共同作業が可能になりました。また、企業のための書類作成をネットで請け負うサービスも出てきており、独立のためのハードルは以前より低くなっています。

情報系の皆さんはITスキルに磨きをかけていくことで、将来フリーランスとして独立するための基本的な能力を会社で身に着け、以降は就業場所を選ばずにフリーランスとして活躍するというストーリーもあるでしょう。

理系転職

会社が合わないと感じてもあなたのせいではありません。

人間関係や食べ物でも好き嫌いがあるように、会社と社員の間にも相性があります。昇進が見込めない場合や仕事を通じて得られるものが無い場合は転職を考えてみると良いでしょう。理系人材は不足しているため、就職できない可能性は低いと言えます。

転職では同業種・同職種を考えがちですが、こだわる必要はありません。

例えば化学系の樹脂合成研究の場合、合成⇒評価⇒実験計画の立案といった流れは有機分子の研究でも適応できます。基本的なプロセスが一致していれば転職成功の可能性は高くなります。ただし、ジョブホッパーや前職を○年以内に辞めた社員を採らないというルールを課す大手企業もあります。1、2回は仕方ありませんが、病気など喫緊の問題が無い場合はすぐに退職しないようにしましょう。

理系では難しいとされる独立

独立のハードルは低くなっていますが依然、理系の独立は難しいと言われています。

機械設計の場合、設計のためのシステムや生産設備は個人では購入できません。設計のみを請け負う場合でも、機械メーカーが信用の無い個人に対して発注することは無いでしょう。

創薬研究でも同様に実験設備が無いため個人で研究開発をすることはできません。専門知識だけで独立できないのが理系の特徴です。

一方で不動産の営業やファイナンシャルプランナーは容易に独立することができます。独立を考える場合は副業や会社での異動を通じて幅広い経験を重ね、個人でもできる商売を見つけなければなりません。マーケティングを通じてどのような技術であれば独立できるのか吟味しましょう。ただし情報系は大規模設備を要さないため比較的独立しやすい業種といえます。

これだけは知っておきたいポイント(まとめ) 

1)専門職の出世でも幅広い知識が求められる

2)他部門への異動は視野を広げるチャンス

3)会社以外にも道はある