人材×経営 ~人事のための人的資本経営の実態や情報開示のポイント~

人的資本経営が注目されている現在、世界的な潮流を受け、日本でも人的資本の情報開示が求められるようになりました。

一方で、人的資本経営を意識しつつも概要を理解しきれていないという人事や採用担当者も多いのではないでしょうか。

本記事では、人事の視点から人的資本経営ができているかのチェックリストや、投資家が注目している情報開示のポイント

どを紹介しています。ぜひ参考にして下さい。

人的資本経営の推進に関わる問題点

人的資本経営の問題点を解説

人的資本経営の推進が行われていない背景には様々な問題点があります。以下は、経営層と人事層という2つの視点から想定される問題点を提示しました。

経営層

1.人材戦略や育成が軽視されている

採用が会社にとって重要と把握していながらも、そこに対する意識の優先順位が低いことから、採用活動を人事に任せっぱなしにしている経営者は多くいます。会社の将来を担う人材の確保に繋げるためにも、経営者は積極的に採用に関与し、力を入れていきたいと考える企業も多いです。

2.経営戦略が抽象的なため求める人材像が立てづらい

人材像は経営戦略を踏まえたものであるべきです。その上で、現状とのギャップを把握し、求める人材を確保する施策を進めます。また、市場や企業の方針が変われば経営戦略も変化します。そのため、求める人材像・人材戦略も見直していく必要があります。

3.人的資本経営の実施のメリットや必要性についての理解を得られない

膨大なコストや実現に時間がかかる等のデメリットに意識が向けられてしまい、実施することに対して快く思わない場合もあります。メリットや必要性を理解し、実施の後押しを積極的に行うようになれば、会社全体の士気が上がることにも繋がります。

人事層

1. 経営戦略と人材戦略をつなぐ仕組みが整えていない

経営と人事部の位置関係が遠いことからお互いの考えや意見交換を十分に行えていないため、人的資本経営を踏まえた採用計画に着手できていない場合もあります。経営戦略と人材戦略が縦に繋がっている状態を作り出すことが人的資本経営が意図する点と考えます。

2. スキルやマンパワー不足

入手順の理解不足や目標・KPI設定の難しさ、採用担当者の人数が足りないといった状況から人的資本経営の実施に工数を回せていない企業も多数います。採用ツールの導入や業務の棚卸、アウトソーシング等を検討することによって、個々の業務に余裕を持たせることができます。

3. 人事データが散在しており統合が難しい

経営層の意思決定に必要な情報を提供する人材になるためには、人材情報の一元化と可視化が必須になります。現状をしっかりと把握できないのに、適切な施策を立案・実行することはできないからです。そのためにはまず、自社内で人材に関するデータをまとめる必要があります。

経営戦略と連動した人材戦略の実現

これまでの人事は人事諸制度の運用・改善が主であり、人事部によって管轄され経営層とは結びついていませんでした。

しかし、人的資本経営を実施する上で、人事を経営課題として捉え、経営戦略と紐づけた人材戦略をすることは重要な要素となります。

経営戦略は、組織の目標や方向性を明確にするものであり、人材戦略は、それを実践できるように従業員の採用や育成、評価や報酬などを設計するもので、目的と手段が合致してこそ、その活動が有効になるからです。 

連動している企業は約6割

企業の人材戦略は4つのタイミングに分かれて策定されており、経営戦略と同時に策定される「同時策定群」、経営戦略に従って逐次的に策定される「逐次策定群」、この2つを合わせた企業割合は約6割となりました。これらの企業は経営戦略と人材戦略 が連動していると言えるでしょう。一方 で、人材戦略なし群も4分の1(26.0%) 存在することが明らかになりました。  

データ引用元:学校法人産業能率大学 総合研究所「人事教育担当者が実践する人的資本経営」

あなたの会社の経営と人材は連動してる?~チェックリスト~

人的資本経営のチェックリスト

上記のように人的資本経営を実施していると答えた企業がいる一方で、そもそも「経営戦略と連動した人材戦略は何か」という問いが浮上します。

以下は、現在の日本企業における「経営戦略と連動した人材戦略」のパターンを整理したものです。貴社の現状と比較しながら、改善点や課題の発見に役立ててください。

採用面:経営戦略を実行するために必要な人材を確保できているか

▢ 人材ポートフォリオの作成

経営戦略上必要な人材の質と量を可視化し、その確保に必要な採用・育成・配置に関する施策を策定する取り組みのことです。経営企画部門や事業部門、経営陣との密な連携が求められる作業となります。

▢ 後継者の育成

将来的に企業の経営人材候補の選抜・機会付与を計画的に実施する取り組みのことです。現在の経営者の引退や、変革を牽引する必要など、後継者が必要とされる理由は様々です。企業は、あらゆる事態や変化に順応するために、常に後継者の育成を続ける必要があります。

育成面:確保した人材を適切に活かせているか

▢ 理念浸透

経営理念やパーパスを社員に浸透させ、マネジメント方法や組織文化の変革を担うことです。社外のステークホルダーからはアプローチの有効性や実効性が見えにくいため、エンゲージメントの調査結果などを活用しながら組織文化の変化・個人の働きがいの変化を定量的に把握することが必要になります。

▢ 社員のエンゲージメント向上

上記のエンゲージメント調査を活用して課題を抽出し、人材施策の検討を行うアプローチ手法です。具体的には、公平な差がつく評価の仕組みや、シニアの職務開発などの具体的な課題を人事施策計画に繋げることを指します。

社内面:連動しやすい企業体制が整っているか

▢ 経営層の主体的なコミットメント

具体的には、役員に対して人材戦略のアウトプットを報酬に反映させる等を行い、経営層主導の運営体制をつくることによって、事業部門側を巻き込んだ人材戦略を実践します。

▢ CHRO(最高人事責任者)の設置

事業ごとにCHROを設置し、事業担当役員と事業CHROが密に連携することで、特徴が異なる様々な事業においても、グループ全体の人材戦略を着実に実行できる価値をつくれることにも繋がります。

▢ 会議体の設置

経営層を委員長として人材に関する委員会などを発足し、高頻度で会議などを開催することによって、経営層や社員たちの人的資本経営に対する意識を維持させようという取り組みを指します。実際に、このような取り組みを大手である花王株式会社も行っています。

投資家はここに注目している!

投資家の注目ポイント

ISOや政府が検討している項目ついて開示している企業は多く存在しますが、そういった断片的なデータだけでは他社との差別化は困難です。投資家達は今後、どのような開示情報に注目をして投資判断を行うことになるのか、人事はどのような観点で開示を行い他社との差別化を行えばいいのでしょうか。

1. 情報開示の「独自性」

例えば、有価証券報告書でもフォーマット通りではなく、自分たちの世界観やオリジナリティを大切にすることで投資家の目に留まる確立が高くなります。

23年3月期の株式会社リクルートホールディングスの有報では、モノクロではなくカラーで表記したことで投資家たちから読みやすく分かりやすかったという評価を得ています。

2. ダイバーシティの内容

ダイバーシティは経営力を判断する指標の1つとなります。例えば、現在の”カリスマ経営者”の後を引き継ぐ人材はいるのかや女性や外国人はいるのかなど。幹部候補生を育てるプランや研修についてもチェックしています。

3. 未来に向けたストーリー

投資家が知りたいのは、開示データを「今後の成長にどのようにつなげていくのか」というストーリーです。ただ情報を開示するだけでなく、2030年にありたい社会、その社会における自分たちの存在意義は何か。パーパスやミッションで未来像を描き出し、「今なにをすべきか」をバックキャストすべきなのです。

4. 開示の姿勢

離職率などネガティブな数字を開示することをためらう企業も多いと思いますが、投資家が見たいのは単なる数字ではなく「未来に向けてどうなりたいか」というロードマップです。離職率が高いのであればそこを課題として「これからどうしていくのか」を示すことが重要となります。ネガティブな数字であっても隠さずに出した方が信頼を得られやすくなります。

参考:経営戦略と人材戦略を連動させる「人的資本経営」の具体的実践|株式会社野村総合研究所

人的資本経営についてより詳しく知りたい方はセミナーレポートをご活用ください

企業が事業環境の変化に対応しながら、持続的に企業価値を高めていくためには、事業ポートフォリオの変化を見据えた人材ポートフォリオの構築や、イノベーションを生み出す人材の確保・育成など、経営戦略と連動した人材戦略が重要となります。

以下の資料に人的資本経営に関してのより詳しい情報が記載されているので、自社の企業価値向上のためにぜひご活用ください。