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ますます売り手市場が進み、ニーズの変化も激しさを増す新卒採用市場ですが、学生の就職に対する意識の在り方にも変化が生じています。
まずは、以下のデータをご覧ください。
【新卒の就職活動時における「転職」についての意識】
引用:OB/OG訪問ネットワークサービス「ビズリーチ・キャンパス」
グラフを見ると、就職活動の段階で転職を視野に入れている学生が半数を超えていることが分かります。
終身雇用を当たり前とする風潮が薄れつつある昨今の中、そもそも学生側には長年勤務する意向がないケースもあるという事実が読み取れます。
せっかく工数をかけて採用活動を行い、ようやく採れた学生に早期転職されてしまっては元も子もないですよね。
そこで本記事では、なぜ学生は転職を視野に入れて就職活動をするのか、その背景を明らかにしていくと同時に、その傾向が新卒採用にどう関わってくるのかまでを解説していきます。
転職志向の学生がこの会社で活躍したい、貢献したいと思える企業像に近づくための情報として、インプットしていきましょう!
転職率は上昇傾向。2022年度は2016年度以来最も高い水準に。
株式会社マイナビは、正社員として働いており、2022年に転職した20代〜50代の男女1,500名を対象に、『転職動向調査2023年版』を発表した。調査結果の概要(一部抜粋)は以下の通り(図1)となっている。
【図1】
引用元:転職動向調査2023年版(2022年実績)| 株式会社マイナビ
2022年の20代〜50代正社員の転職率は*7.6%で、前年度(7.0%)から上昇した。2016年以降でもっとも高い水準となる数値であり、転職活動が積極的に行われていたと考えられる。また、性年代別にみると、特に20〜40代男性は、過去7年間で最も高い転職率となった。新卒学生だけでなく、社会全体として転職が「当たり前化」しつつあることがいえる
※国勢調査における正規雇用者全体の構成比に合わせたスクリーニング全回収数のうち、該当期間(各1年間)に転職したサンプルの割合
就活生が転職を視野に入れるタイミングとは?
社会人の間で転職をすることが珍しくない昨今の中で、就活生は新卒入社後から何年目での転職を考えているのでしょうか?
「Job総研」が実施した、就活生男女127人を対象にした「2023年 就活実態調査」では、就職後に転職を考えるタイミングについての実態が判明しました。その結果が以下のグラフ(図2)です。
36.3%は計画的に転職を考える、28.3%はミスマッチを感じて転職を視野に入れるとあり、計画的に考えていく人の方が多い結果に。
転職する理想のタイミングとしては、5年目が最多で37.8%、次が3年目で24.4%となり、全体的として、入社してから5年以内の転職が70.8%という回答結果になりました。
【図2】
転職を「意識する」「意識しない」学生それぞれの理由とは?
記事冒頭でご紹介した、「新卒の就職活動時における『転職』についての意識」を表すデータにおいては、就活生の2人に1人が転職を視野に入れて就職活動をしていることが分かりました。
一方で、図2の円グラフ「1社でできるだけ長く勤めたいので転職はしない」が35.4%を占めており、転職を「意識していない」学生も一定数存在しているようです。 両者それぞれ、一体どのような理由を抱えているのでしょうか? その理由を一部ご紹介します。
【意識している】と答えた学生の声
・「不確実な社会であるため、会社に依存した人材よりも、汎用性のあるスキルを持ち、市場価値を高めることが、持続的に働くことや社会貢献するために必要であると考えるから。(東京大学)」
・「年齢を重ねるにつれてやりたいことややるべきことが変わってくると考えていて、新卒で入社した会社でできるとは限らないから。(お茶の水女子大学)」
【意識していない】と答えた学生の声
・「もし現在自分が最も志望する企業にはいれたなら、ジョブローテーションを通して理想とする複数通りのキャリアプランのいずれかを達成できると考えているため。(法政大学)」
・「結果的に転職する可能性はあると思うが、現在の就職活動においては、ずっと働きたいと思えるような魅力的な会社を探しているため。(東京大学)」
意識している学生も意識していない学生も、現時点でのキャリアの方向性に沿って考えていることがわかります。そのため、仮に転職を意識しない意向を示していても、今後のキャリアの価値観が変化するにつれて、転職が選択肢の一つとして上がってくる可能性もあるかもしれません。就業経験のない学生だからこそ、実際に働いてみることで新たな気づきを得ることができ、考え方が変化することもあるでしょう。
転職を考える学生の背景にある心境とは?
学生ながらにして、転職という先を見据えた就職活動をする背景には、どのような心境や影響要素が存在しているのでしょうか?
ここでは複数の観点から、学生が転職を選択肢として入れるに至る事情を分析していきます。
将来に対する理想と不安
以下のグラフは、就活生に対して、「将来の理想像はあるか」、「不安は何か抱えているのか」を聞いた調査結果(図3)です。
理想像においては、「ある」と答えた方が全体の8割を示しており、将来像を見据えたキャリア形成をしながら就職活動をしようとする傾向がみられます。漠然とでも描く未来像の実現のためには、転職を一つの手段として考えるという学生の意思が読み取れます。
一方で、将来への不安が「ある」と答えた学生は全体の7割を占めており、多くの学生が今後の人生において心配や悩み事を抱えていることが推測できます。図4では、具体的にどのような不安を持っているのか、93名の学生に内容を聞いたものを表しています。自身のキャリアや収入に関するものが多くみられ、そういった不安があるために、場合によっては転職することも考えているのでしょう。
この調査結果からは、学生は将来への理想像を描きつつも、どこかで不安も抱えており、それが就職活動における意識として表れていると結論づけることができます。新卒採用人事の方は、面接や面談を通じた機会を利用し、学生の本音や悩み事に寄り添うことで、自社でそれらを解消し、活躍するイメージをつけてもらえるよう接していくことが求められてきます。
【図3】
【図4】
自立的キャリア形成を目指す学生
VUCAの時代とも呼ばれる現代社会を生きるZ世代の若者は、自分の未来を自分で切り開こうと主体的なキャリア形成をしようとする傾向があります。
以下のグラフ(図5)は、25卒学生にキャリア形成について聞いた調査結果を示すものです。
【図5】
自身で「主体的にキャリアを選択したい」と回答した学生は全体の6割以上を占めており、「就職する企業に委ねたい」と答えた学生数の約4倍にも及んでいます。
この背景には、「終身雇用前提」「大企業だから安泰である」という以前の風潮が変わり、現代では新型コロナウイルスによる経済への打撃や大企業のリストラに代表されるような先行きの不透明さがあることが関連要因に考えられます。その結果、在籍する企業に身を委ねるのではなく、自律的にキャリアを築いていこうとする学生の心理があるのでしょう。
また、近年において働き方や採用形態における多様化が進んでいることも背景の一つに挙げられます。その一例として、リモートワーク、フレックスタイム制、副業制度の普及などがあります。採用市場においても、「リファラル採用」「ジョブ型採用」「スクラム採用」といったように、年々様々な採用形態が誕生し続けています。特にジョブ型採用は、導入を進める企業が増えてきており、主流化しつつあります。以下の円グラフ(図6)が示すように、就活生の間での認知度や興味関心が高まってきていることがいえます。
【図6】
「ジョブ型採用」に対して、「興味がある」と回答した学生は8割以上を占めており、昨年度の24卒よりも約2割増加しています。ジョブ型雇用のメリットとして、自身の磨きたいスキルや就きたい職種に応じたキャリアを歩めることや、いわゆる「配属ガチャ」の恐れがないことが挙げられます。このように、主体的にキャリアを形成できる採用形態への関心が高まっていることは、転職志向の学生が増えていることとも紐づけることが可能です。また、人事の方は、この学生ニーズに合わせて新たにジョブ型採用や職種別コースを設けた採用を始めてみるのもいいかもしれません。
転職前提の学生を採るメリット/デメリットとは?
ここまで、転職を視野に入れながら就職活動をする学生の実態について紐解いてきましたが、そういった学生を自社に迎え入れることにはメリットとデメリットが存在します。自社の状況や事情によっては、どちらかの比重が大きくなるため、注意が必要です。それぞれ、どのような影響があるかを整理していきましょう。
デメリット
「転職するかもしれない」と聞いて、ネガティブな印象を抱いてしまう方が多いのではないでしょうか。人事の方からすれば、コストをかけて採用した人材が自社から離れることになるため、当然でしょう。特にマイナスとなる影響力が大きくなるケースは自社内における人材不足がまず挙げられます。ただでさえ売り手市場が進む昨今の中、苦労してやっと採用した人材がいなくなることは、リソースが足りない自社にとって大きな打撃となるでしょう。本来であれば即戦力として活躍してもらいたい自社都合と、転職も選択肢に入れる学生とでは、互いのミスマッチにつながります。
もう一つ、デメリットとしてはたらく可能性が高いケースは採用に工数をかけられない場合です。人事は社内における衛生管理や勤怠管理、研修など、採用に限らない様々な仕事が課されていることが一般的でしょう。新卒採用だけに時間を避けられないことも少なくないため、人事部内でのリソースがどれほどなのかをしっかり踏まえた上で、採用する学生の意向(*ここでは転職をさす)も把握することが大切です。
メリット
先ほどデメリットとなるケースをお伝えした通り、一般的には転職するかもしれない学生に対してあまり好印象を抱けないこともありますが、視点を変えると自社にとってはメリットとなる側面もあります。
記事内でも述べましたが、就活生の中には将来像を見据えている学生や主体的にキャリアを形成しようとする学生も多くいます。こういった学生はキャリアにおける目標や理想像が少なからずあるため、新卒で入社した会社にて成長や自己研磨への意欲が高いことが推測されます。将来のためにスピード感を持ってスキルを磨き、自己実現をしようという考え方になるため、バリューを発揮しようと積極的に行動し、結果的に会社としての成長にも貢献してくれるので、お互いがwin-winの状態を築けることが考えられます。この点からいえば、将来的には転職する可能性がありますが、自社内に功績を残して卒業していく人材としても採用する価値はあるでしょう。
自社に合った人材を採用するために
以前の日本では、終身雇用が根づいており、社員は定年まで同じ会社にて勤め続けることが当たり前でした。しかし、近年ではその考え方はもはや古く、転職をして複数の会社に勤務する経歴を持つ方も少なくありません。学生側においても、新卒入社先を探す段階から、転職を視野に入れて就活するケースが増えています。その背景には学生それぞれキャリアに対する姿勢や意識が様々あり、一つの会社に定年まで勤務するケースは減少傾向にあります。
採用人事の方は、こういった現状を踏まえ、自社ではどのような雇用形態で、どのような将来像を持った学生を採っていくのかを考えることが求められてきます。「採用成功」という結果を導くためにも、採用活動では学生と真摯に向き合い、自社に適した人材なのかを見極めていきましょう。
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