理系の特長として、大学や大学院で専攻した分野がキャリアに直接、結びつくことがあります。自分の続けてきた研究をキャリアとして確立したい、そんな希望を持つ人も多いでしょう。アカデミアの世界でポストを得るのは大変ですが、民間企業に研究職として就職するという方法もあります。
本記事では、企業での研究職とは、大学や公的機関の研究職とどのような違いがあるのか、また、企業の研究職として就職した場合、どのようなキャリアプランが考えられるのかについて紹介します。
研究職とはどのようなものかを知りたい方は、次の記事を参考にしてください。
企業における研究職とは?
最初に企業における研究職がどのようなものか、大学や公的機関と比較しつつ押さえておきましょう。
企業での研究職は大学や公的機関とどう違う?
企業と大学や公的機関の最大の違いは、企業は組織を維持存続させるために適正な利益を上げなければならない点にあります。企業は儲けを出せなければ存続できません。企業での研究も「自社の生産性に寄与する」ことが最大の目的です。
近年、基礎研究に力を入れている企業も増えています。しかし、企業では経営戦略を踏まえた上で、商品化に結びつくような新技術の創出に向けた研究が中心になります。
建築や電気・電子など専門と就職が一致しやすい専攻であれば、そのまま関連業界に進むことも多いです。、基礎研究など企業の研究内容と直接結びつかない分野の出身者であっても、研究視点や研究計画などでの役割で企業とマッチすれば採用されます。
大学での研究職
アカデミアの世界でキャリアを目指すのであれば博士号は最低条件です。博士号取得後もただちに大学の正規教員になることはまれです。ほとんどはポスドクなどの非正規雇用・期間雇用で経験を積んだ後に、能力と運に恵まれた人が大学でのキャリアを築けます。
特に基礎研究の分野で自分の追求したいテーマが明確にあり、研究をとことん追求したい人にとっては検討すべき選択肢の一つです。
また、企業の研究者を経て客員教授・教授として大学に戻るキャリアパスもあります。近年、アカデミアと民間企業も活発になっており、さまざまな機会があることを理解しておきましょう。
公的機関での研究職
理化学研究所(理研)や宇宙航空研究開発機構(JAXA)など、独立行政法人の研究所が数十か所あります。専門性が高いため、大学同様に博士号取得は必須で非正規を経て正規職員となるルートが一般的です。
また、農林水産省・厚生労働省など各府省庁が統括する政策研究所もあります。政府系シンクタンクと呼ばれることも。ある事象について調査を行い、結果を政策に活かしていくのが主な役割です。国家公務員総合職試験を突破し、希望する研究機関を訪問するルートが一般的です。
次の記事でも研究職の仕事内容について詳しく説明しています。
参考にしてください。
企業研究職のキャリアプラン
企業の一員となった後の研究者のキャリアプランの主なものを整理しておきましょう。企業研究者の主なキャリアプランには次のようなものがあります。
- ・プロジェクトのリーダー
- ・マネジメント
- ・エキスパート
- ・他分野/他部門
- ・起業
- ・大学/公的研究機関
- ・異業種
プロジェクトリーダー
研修段階を経て一人前になった研究者は、研究者としての経験を重ねながらプロジェクトを任されるようになります。プロジェクトの運営などでリーダーシップの経験を積んだ人は、研究者から今度は横断的なプロジェクトリーダーに昇進する、というキャリアプランが考えられます。
研究者として専門的な知識を持つと同時に、様々なプロジェクトを統括するリーダーは、組織において次のような役割を担います。
- ・プロジェクト全体の統括
プロジェクト全体の管理者としての役割を果たします。個々のプロジェクトに携わるのではなく、全体を俯瞰したり、予算を取りまとめたりする作業を行います。
- ・他部門との協力関係の構築
生産部・営業部・経営陣など、他部門との折衝や協力依頼を行い、プロジェクト全体が順調に進むように配慮を行います。
- ・研究者としての専門知識の活用
研究者として培った専門知識をプロジェクト統合に活かします。また、チームメンバーの指導も行います。
マネジメント
研究者として経験を積んだ後、管理職に昇進して企業全体のマネジメントを手掛けるキャリアパスもあります。マネジメントに携わる場合は、研究からは離れることになりますが、組織において次のような役割を担います。
- ・専門知識を活かした戦略の立案
研究者出身の管理職は、専門知識と経験を踏まえて、長期的な戦略やビジョンを立案します。
- ・研究経験を活かしたリーダーシップ
課題を設定し、真摯に取り組み、結果を出す研究者の姿勢は、管理職としても組織全体に効果をもたらします。研究者出身の管理者がリーダーシップを発揮することで企業の課題が明らかになり、課題解決に向かえば企業全体の業績向上にもつながります。
- ・全般的な技術水準の向上
研究の重要性を理解する研究者出身者が管理職となれば、企業の全般的な技術水準の向上が期待できます。また、学会や他の研究機関との交流を通じて、最新の研究情報や技術情報を得られます。
エキスパート
一方、研究者として企業に入社してもプロジェクトリーダーやマネジメントを担当することなく、確立した自分の研究分野で専門知識やスキルを高め、その分野のエキスパートとなるというキャリアプランもあります。
エキスパートは次のような役割を期待されます。
- ・深い専門知識
エキスパートである研究者は、専門分野で深い知識を積み重ねていることが期待されます。また、最新の研究動向や技術の進展にも詳しく、若手研究者にとってのメンターでもあります。
- ・継続的な研究成果
現場で常に一線の研究者であるためには、新たな発見や技術の応用に焦点を当て、数多くの研究成果を生み出す必要があります。また、論文の発表・特許出願など、研究をまとめて次につながる土台を作ることも重要です。
- ・企業内外での専門的リーダーシップ
エキスパートは企業内外でリーダーシップを発揮します。企業内では、研究成果をわかりやすく伝えてビジネス戦略の策定に貢献するのも役割の1つです。また、論文などを通して多くの人に研究成果を伝えます。これにより、企業の研究開発面での競争力向上に貢献します。
他分野・他部門
利潤を最優先する企業は市場や競合の動向によって、しばしば方針を転換します。研究者も企業の方針に合わせて異なる分野の研究を求められたり、研究から開発へなど異なる部門への移動が命じられたりする場合があります。
企業の研究者に求められるのは、研究分野の変更・所属部門の移動に対して臨機応変に対処できる柔軟性です。専門知識に特化せず、身につけた専門知識の素養を活かして業務を進めることが期待され、移動した分野・部門で新たなキャリアパスを築くことが求められます。
起業
企業で研究者として経験を積んだ後、起業家として新しい事業を立ち上げるというキャリアプランもあります。研究者出身の起業家が担う役割として、以下のようなものがあります。
- ・研究成果の事業への応用
研究者は自身の専門分野での研究成果を活かし、新しい製品やサービスの開発を行います。 重要な技術や発明に対して特許を取得する場合もあります。
- ・チームの構築
起業する研究者は、自身の強みとは異なるスキルを持つ人材を集め、チームを編成します。事業運営に関わる法的な事項に詳しい人、販売やマーケティングの知識のある人など、ビジネスの成長をサポートするための人材を集めます。
- ・資金調達
起業し、研究・開発を続けるためには、資金調達が重要です。研究者出身の起業家は、研究成果に基づいて補助金や助成金を確保できる強みがあります。投資家やスポンサー企業と交渉し、資金を調達して事業を成長させる際にも説得力のあるプレゼンを行うことができるでしょう。
大学・公的研究機関へ
企業勤務を経て、大学に再び戻るというキャリアプランもあります。アカデミアへのキャリアプランは企業主導型か、本人の意思かによって、次のように分かれます。
- ・企業主導型の場合
大学との関係性を深めるために、企業が派遣する形で研究者を送り出します。大学で博士号を取得したり、研究室で教授を補助して学生を指導しつつ、有望な学生を自社を紹介するなどの役割を担います。
- ・本人の意思で大学に戻る場合
大学で研究を続けたい人や、何らかの理由で企業で希望する研究ができなくなった人が、企業を辞めて大学に戻るケースです。博士号をすでに取得している人であれば、公募などを通じて大学のポストを探します。
また、アカデミアと同様に、企業から公的研究機関へと進むキャリアプランもあります。公的研究機関の場合も、企業から派遣される形態を取る場合と、企業をいったん退職して公的研究機関に入職する場合があります。
異業種へ
企業研究職で得た専門知識や問題解決能力は、他の産業や職種でも高く評価されることがあります。例えば、製造業の研究職からサービス業への転身や、医療研究職からIT業界への参入など、さまざまなパターンがあります。
企業研究職のキャリアプランを考える場合には、長期的な視点を持つことが重要です。次の記事は長期的なキャリアプランを考える際の参考になります。
企業研究職種類別のキャリアプラン
研究職は一般に、基礎研究と応用研究、開発研究に分かれます。それぞれのキャリアプランを見ておきましょう。
基礎研究職
基礎研究は、物質や自然現象を解明し、そこから新しい論理の構築を目的とする研究です。近年、先端技術の分野で国際的な競争が激しくなっており、日本企業でも重視する企業が増えています。
基礎研究職でのキャリアプランは、主に次の3つです。
- ・研究者→研究分野のエキスパートへ
その分野の第一線の研究者として、企業内で研究を続けるキャリアプランです。研究成果をまとめた論文を発表することで、企業の研究における地位向上にも貢献できます。
- ・研究者→研究部門のマネジメントへ
プロジェクトリーダーを経て、管理職として研究部門全体をマネジメントするキャリアプランです。自分が直接的に研究へ携わる機会は減りますが、研究者たちがより研究しやすい環境を作るため、部門全体のプロジェクト・予算管理を行います。
- ・研究者→起業へ
研究成果を活かし、起業するというキャリアプランもあります。退職して新たにスタートアップを立ち上げるだけでなく、社内に籍を置きつつ社内ベンチャーという形で起業する方式もあります。
応用研究職
応用研究は、基礎研究による発見を踏まえ、どのように市場ニーズや企業戦略に合った製品やサービスを生み出していくための研究を指します。基礎研究よりも目に見える成果が求められ、納期や予算なども基礎研究よりもシビアに定められています。
応用研究職のキャリアプランは、上記の基礎研究と同様、「エキスパートになる」「マネジメントに昇進する」「起業する」に加えて、製造部門に移るというケースもあります。
- ・研究者→製造部門へ→マネジメントへ
研究成果を実際の製品に活かすために、製造部門に移るというキャリアプランもあります。企業が売るべき「もの」を作る製造部門は企業の心臓部ともいえる部門です。研究と製造の両方を経験することで広い視野を養い、管理職へ進むキャリアプランを描くこともできます。
開発研究職のキャリアプラン
開発研究職は主に製品や技術の具体的な形に落とし込むことに焦点を当て、製品やサービスの市場競争力の向上を目指します。製品の品質管理や生産工程の改良を行うことも開発研究の仕事です。
開発研究職のキャリアプランも応用研究職と同様、「エキスパートになる」「マネジメントに昇進する」「起業する」「製造部門に移る」があります。
企業研究職でのキャリアアップに必要なスキル
「研究分野のエキスパート」「マネジメント」「起業」を目指すにせよ、キャリアアップにはスキルが必要です。専門分野の研究スキルを上げていくのはもちろんですが、以下のようなスキルも求められます。
論文作成力
企業の研究者であっても研究をまとめ、論文にして発表することが重要です。「どのような課題を解決したものなのか」「、どのような価値につながるのか」を明確にし、読み手にわかりやすいように伝えなければなりません。論文は、研究を広く発表するだけでなく、企業内に成果を蓄積する役割もあります。わかりやすく、次に続く人の参考になるような論文を作成することが求められます。
英語力
論文は日本語で発表する場合もありますが、英語で書く場合も多いです。英語で論文を作成する場合は、日本語以上に論理的明晰さが求められます。翻訳ソフトなどもありますが、日本語→英語の場合の精度は英→日よりも下がるため、できるだけ自力で書く習慣をつけた方が良いでしょう。研究者に必要な英語力は、TOEIC600点程度と言われています。そのほかにも専門に関連する語彙力を増やしたり、数字や図表を用いた説明を行う際の定型表現を身につけておくと、英語での論文作成も容易になります。
プレゼンテーション能力
研究の成果を発表するだけでなく、新たに研究を立ち上げる・社内外で研究内容を説明する時など、研究者であってもプレゼンテーションを行う機会は多くあります。難解な表現を避け、最初の数十秒間で聞き手を惹きつけるプレゼンテーションを行いましょう。
コミュニケーション能力
チーム内でのディスカッションや社内外での面談など、コミュニケーション能力が求められる場面は数多くあります。コミュニケーションというと「自分は口下手なので…」と言う人が多いのですが、実際のコミュニケーションの場では、相手に気持ちよく話をしてもらうことの方が重要なことが多いのです。
コミュニケーション能力を高めるためには、日ごろから意識して相手の話を聞くことが重要です。例えば、「カフェへ行ったら店のスタッフにお勧めの飲み物を聞く」「お勧めの飲み物に合う食べ物を聞く」「自分の好みを伝えた上で、どのようなものを選んだらよいか、アドバイスを求める」などのコミュニケーションが挙げられます。自然にコミュニケーションができるように、練習を重ねてください。
企業研究職では自分に合ったキャリアプランを考えよう
企業研究職は、研究者であると同時に企業の一員です。キャリア形成も、企業の方針や市場の動向、顧客ニーズなどに左右される傾向があります。
だからこそ、自分自身でしっかりと自分のキャリアプランを考えましょう。具体的には、「研究のエキスパートを目指すのか」「マネジメント業務に就くのか」「企業の方針が変わった場合はどうするのか」などです。さまざまな場面を想定し、最も自分に合ったキャリアプランを考えましょう。
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